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199 行き詰まった企み

 こうして(イェン)らによって大々的に遊郭街の警備が行われ始めたものの、それからしばらくの間は何事も起こらずに数日が過ぎた。やはり警備が強化されたことによって、幽霊を装った出没はやりづらくなったのだろうかと思われる。  そんな中、密かに地団駄を踏んでいる者がいた。例の――客に危険薬物を入手するよう頼んだ男娼である。今宵もまた、厳重に締め切った室内で客に色を与えながら彼は憤っていた。 「――まったく! こう警備にウロチョロされたんじゃ動きようがないよ!」  焦れる彼を懐に抱えながら、客の方はニタニタと侮蔑の笑みをこぼしている。 「ま、それも自業自得だろうぜ。幽霊騒動なんてチンケな手を考えたおめえさんが間抜けなだけだろうが」 「うるさいよ! 少しはお黙り!」 「終ぞこの地下街の皇帝にまで話が上がっちまったってんだろ? そりゃあ警備が厳しくもなろうってもんさ!」  まあ、ほとぼりが冷めるまで諦めるこったな――と、侮蔑する。 「冗談じゃないよ! せっかくお前さんからこの薬を手に入れたんだ。悠長に待ってなんかいられるもんかえ」 「だが動きようがねえモンは仕方ねえだろうが」 「……。ねえ、お前さん。前に私を手伝ってやってもいいって――言ったのを覚えておいでかい?」 「ああ? なんだ、急に」 「悔しいけれど――確かに今のままじゃ動きようがないのは事実さ。特に私らのような稼ぎの良い男娼の周りには警備の連中がしつこく目を光らせてる……。このままじゃ幽霊騒ぎすら起こせやしない」  急に甘えた声音を出し始めた彼に、客の男はより一層ニタニタと下卑た笑みに瞳を細めてみせた。 「だから――なんだ。この俺様に手助けしろってか? この前は冷たく突っぱねたくせになぁ」  確かに薬物を入手した晩に、手助けしてやろうかと言ったこの男の申し出を断ったのは事実である。 「冷たいことをお言いでないよぉ。あの時はお前さんの手を汚させるなんて――と思っただけさ。けど、今の状況じゃ身動きが取れないのも事実だよ。だからお願いさ、ちょいと頼みを聞いてもらえないかえ?」 「ふん、相変わらずに調子のいいこった。まあ――聞いてやらねえでもねえが、そん代わり――頼みってのによっちゃ多少は高くつくぜ?」 「ハナから承知さ。お前さんのような男がタダで何かしてくれるなんて思っちゃいないし――。それに、私だって頼み事をしておいて対価も無しなんていう薄情者じゃないつもりさ」  手伝っておくれかい? と、男の胸元にしなだれかかる。 「――いいだろう。おめえのような悪食に下手(したて)に出られるのも悪くねえ。で、俺ァ何をすりゃいいんだ?」 「ふふ、そうだねえ……。ひとまず真打ちの前に前座の余興とでもいってみるかねぇ」  男娼はますます深く男の腕に身を擦り寄せながら、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。 「前座だって? まさか関係のない人間まで()っちまおうってのか?」  おいおい、いくら何でも殺しの片棒を担ぐなんざ御免だぜ――と、男は苦笑いだ。 「別に大層なことをしろだなんて言っていないよ。なに、ちょいと時間稼ぎの手伝いをしてくれるだけでいいのさ」 「時間稼ぎだ?」 「ああ、そうさ。お前さんは幽霊騒ぎを起こして警備の目を引きつけてくれるだけでいい。そうすれば私は自由に動けるだろう?」 「は――! その隙にまた悪さをしようってか? 綺麗なツラして腹ン中は真っ黒か! 恐ろしいこった」 「ふ、なにを今更! とにかく頼んだよ」  含み笑いをした美しい頬を遊郭街の行燈が照らし出す。ユラユラと揺れる光が映し出すのは恐ろしい魔物の如くであった。 ◇    ◇    ◇

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