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200 第三の事件勃発

 事が起こったのはそれから数日後のことだった。朝一番から血相を変えた(ジン)が椿楼の紫月(ズィユエ)の元に駆け込んで来たのだ。 「(あに)さん! 紫月兄(ズィユエ あに)さんッ、大変です!」  水仙楼で男娼の変死体が見つかりましたッ――! 「……! な……んだって?」 「亡くなったのは水仙楼の翠萌(ツィーメン)という男娼です。水仙楼ではここ二日ばかり翠萌(ツィーメン)の姿が見えないと騒ぎ始めていたそうですが、今朝になって店の裏手にある物置小屋の中で亡くなっているのが見つかったと……。しかも死因が……」 「……どうした。死因は何だっていうんだ」 「……それが、簪で首筋を刺されたようで」 「……! 何だって……?」 「今、私の両親が検死に向かっております」 「……すぐに行こう。(ジン)、お前さんは(りょう)と皇帝様に急いで報告してくれ!」 「承知いたしました!」 ◇    ◇    ◇  (イェン)遼二(りょうじ)が駆け付けたのは、それから半刻も立たない内だった。現場では(ジン)の両親による検死が行われていて、それを神妙な面持ちで見つめている紫月(ズィユエ)もいる。周囲には近隣の妓楼から集まって来た男娼や下男らでごった返してもいた。 「……先生方、これはいったい」  野次馬を掻き分けて(イェン)が険しく眉根を寄せる。 「ああ、皇帝様……。ご覧の通りにございます。死因はこの簪で刺されたことによるものですな。頚動脈を一突きです……。おそらくは即死だったかと」  春日野(かすがの)医師によれば簪の先端が鋭利に削られているそうだ。 「――素人の仕業とは思えんな」 「ああ……明らかに計画的と言っていい」  (イェン)遼二(りょうじ)も遺体の側に屈んで状況を確かめる。わざわざ簪の先を削っていることからしても、場当たり的な犯行とは考え難い。 「それで――この男娼が亡くなったのはいつなのだ」 「死後丸一日以上経っていると思われます。亡くなったのは昨日の未明でしょう」 「未明か――。まだ夜の照明の時間帯であるな。その頃に幽霊騒動を見聞きした者はいるか?」  野次馬たちに向かって(イェン)が訊くと、やはりか白い(もや)のようなものを見たという下男が数人名乗り出た。 「皇帝様のおっしゃる通りでございます……。一昨日の晩のことです。店がハネて後片付けも済んだ頃でした。うちの裏庭には井戸がございまして……寝所へ向おうとしたところ、その井戸から白い(もや)が立ち込めているのを見掛けまして」  下男らの話では、井戸の中から立ち込めた(もや)が次第にモクモクと辺り一面に広がり出したのだそうだ。 「咄嗟に例の幽霊騒動を思い浮かべました。気味が悪くなって……応援を呼びに行こうとすぐにその場を後にしましたが、店主に報告して井戸へ戻ったものの、(もや)はすっかり消えておりました」  見たのは(もや)だけで、幽霊のような人影は見当たらなかったという。 「私共も恐怖の方が先立って、はっきりとその場を確認しないまま離れてしまいましたから……」  もしかしたら人影らしきものがあったのかも知れないが、定かでないと言う。 「致し方なかろう。とにかく放り置けん事態だ」  遺体を病棟へ移してから、更に詳しい死因について春日野(かすがの)夫妻に調べてもらうこととなった。 ◇    ◇    ◇

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