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「白い靄 と言えば、考えられるのは何かを燃やした際に出る煙が想像できるが、火の気を使えば後の始末に手間が掛かる。加えてここは地下街だ。一歩間違えれば火事が起こるのは想像に容易い。しかも、皆が見た靄 は短時間で跡形も無く消えている――とすれば、燃えかすの残る火気や煙幕のような物ではなく、靄 はドライアイスのような代物じゃねえかと思えるんだが」
ドライアイスならば水気を含めばたちまち白煙が上がるし、気体化してしまえば跡は残らない上に片付けも必要ない。今回、井戸の中から上がった煙というのもうなずける代物だ。ただ単に井戸へ放り込めばいいだけだからだ。すぐにその場から立ち去ることも可能だったろう。
使われたのがドライアイスだとして、入手にはそう手間が掛かる代物でもない。
「厨房に行けば誰でも難なく手に入れられるからな」
店がハネた真夜中に忍び込むことは容易だろう。
「問題は殺害の手口だ。過去の事件と合わせて今回で三件目になるわけだが――毎回手口がバラバラというのは気に掛かる」
「そうだな。案外――下手人はそれぞれ別の人間と思わせる為に敢えて手口を変えているとも考えられる」
「うん……。今回使われた簪については早速出所を探るつもりだが、正直あんまし期待はできねえかも……」
紫月 曰く、殺害に使われた簪は左程珍しくもない量産されている代物だそうだ。
「敵とて持ち主や出所が分かるような高価な一点物なんかは使わねえだろうからな。まあ――誰かに濡れ衣でも着せようってんなら、敢えて持ち主の分かる代物を盗んでおいて、そいつを使う可能性も無えとは言えねえが……。さっき見た限りじゃ、デビューしたての新人男娼がよく使うタイプの簪だった」
つまり、簡単に手に入る比較的安価な簪ということだ。同じデザインの物を持っている男娼も数多いという。ということは、誰かに濡れ衣を着せるという方の目的ではなく、犯人が特定できないようにする思惑が強いと思われる。
「とにかく――これで終わりと考えるのは危険だ。まだ誰かが狙われる可能性も無いとは言い切れん」
引き続き警備を強化しつつ、過去二件の事件と今回の殺害の関連性をはじめ、亡くなった新人男娼がトラブルを抱えていなかったかどうかなども調べていくこととなった。
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