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203 薄れゆく噂

 その後、しばらくは取り立てて何事も起こらずに半月が過ぎた。  不思議なことに、あれ以来幽霊騒動に遭った者もおらず、誰もが次第に事件を忘れ掛けていった。今回も既に男娼が一人亡くなったことで、これ以上は何も起こらないだろうと考える者も多かったようだ。  (イェン)らは引き続き事件について調査を続けていたが、月日による物事の風化というのは自然の道理だろうか。遊郭街の人々の間では警戒心が薄れていくのも早かったようだ。 「あれから半月か。やはり今回の目的は亡くなった新人男娼だけだったということだろうか」  未だ犯人の目星も見つけられないまま時間だけが過ぎていく。紫月(ズィユエ)は事件当夜に翠萌(ツィーメン)という男娼が相手をしていた客についても詳しく調べていたが、これといって怪しい点は見つからなかった。 「あれから(ジン)のご両親が更に詳しく検死してくれた結果、亡くなったのは未明――明け方の四時頃と判明した。その前夜に彼が相手をしていたお客だが、翠萌(ツィーメン)のデビューと同時に贔屓にしてくれたお人で、遊び方も粋を心得ている信頼できる人柄だ。亡くなった翠萌(ツィーメン)のことも大事に扱ってくれていて、金の払いもスマートでトラブルも無かったって話だった。当夜のそのお客が下手人の可能性は低いと思う」  紫月(ズィユエ)の報告に(イェン)遼二(りょうじ)も重い溜め息をつく。 「ということは、男娼が被害に遭ったのはそのお客を見送った後ということになりそうだな。店がハネた後の彼の行動を覚えている者はいねえのか?」 「うん、それについても同僚男娼らに訊いたんだけどな。お客を見送った後、翠萌(ツィーメン)が湯浴みをしたところまでは下男が見届けてる。湯から上がって寝所へ向かい、その後は不明だ。物置小屋で殺されていることから、おそらく誰かに呼び出されたんだろうと考えるのが自然だが、下男は呼び出しのような言伝を受け取った覚えは無えそうだ」  となれば、湯浴み後に寝所へ向かってから何らかの方法で秘密裏に呼び出されたということか。 「新人といえども男娼としてデビューしたと同時に、寝所は大部屋ではなく個室が与えられる。けど、建物自体は戸建てというわけじゃねえからな。他の男娼らに見つからずに翠萌(ツィーメン)の部屋を探り当てて忍び込むことは、本来難しいはずなんだが」 「だとすれば、事前に待ち合わせの約束があったのかも知れんな」  同僚や下男らにも悟られずに亡くなった翠萌(ツィーメン)が下手人に呼び出されていたと考えて、未明と言われる真夜中に人目を忍んで出向いたならば、余程の用事だったのかも知れない。 「下男にも言えないということは、何か弱みでも握られていたとも考えられる」  だが、紫月(ズィユエ)の知る限りでは弱みを握られるようなタイプではなかったはずだという。

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