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205 幽霊騒動再び
そうしてしばらくは何事もなく平穏が戻ってきたかと思われる頃だった。再び幽霊騒動が起こり、男娼らが相次いで怪我を負うという事態が勃発。今度は死人こそ出なかったものの、軽傷から深傷を負った者――と、数人が被害に遭うこととなった。彼らの話によれば、前例と同じく白い靄 のようなものが立ち込めた後に人影が現れて、逃げようと背を向けたところで後方から殴り掛かられたり斬り付けられたりというのが殆どだった。
被害者は三人に上り、皆それぞれ別々の場所で襲われたとのことだ。それが路地裏だったり妓楼内の裏庭だったり様々ではあるが、誰もが一人で居る時だったそうだ。
焔 らの手配した警備はつつがなく行われてもいた。そんな厳戒態勢の中でも警備の隙をつくことができたということは、遊郭街の内情にある程度精通した者の仕業と思われる。
「――うむ、見回りに出る時間や各妓楼を巡回する順序は通知していなかったにもかかわらず、立て続けに襲われたわけだ。となれば、巡回が済んだ箇所を狙ったと考えるしかあるまい」
「つまり下手人は明らかに内部の人間だろう。仮に客の誰かだとするなら、よほど頻繁にこの遊郭街を訪れている人間ということになる。襲われた男娼らの交友関係を詳しく当たると同時に、彼らを贔屓にしていた客についても素性を洗う必要があろう」
調査は男娼たちの周辺で客や同僚とトラブルを抱えている者がいなかったかなどを中心に行われていったが、数日が経てどもこれといって目ぼしい情報は上がってこなかった。
紫月 は父の飛燕 と共に、相変わらず寝る間も惜しんで各妓楼を回り、調査と警備に当たっている。焔 も統治の傍ら、頻繁に遊郭街へと顔を出していたが、他の街区を蔑ろにすることもできない上に各国から来る無碍にはできない客人の対応に追われたりと多忙な日々――。加えて遼二 ら鐘崎 組の組員たちは女遊郭も含めた通常の警備で手一杯なのも確かで、日を追う毎に誰もが辟易する状況に追い込まれてもいた。
そんな中、今日も一通りの巡回を終えた遼二 が、報告の為に椿楼へと立ち寄った際のことだった。紫月 は店を空けていたが、下男の菫 が留守を守っていて出迎えてくれた。
「紫月 はまだ調査に出掛けたきりか」
「鐘崎 の若 様、お疲れ様でございます。はい、紫月兄 さんは軽く昼餉を取られてからまた妓楼回りに――。店が開く夕方には一旦戻られるとのことでしたが」
「そうか。ヤツもこのところ休みなしだからな。身体を壊さねばいいのだが」
「ええ……私も案じてはおるのですが。それより若 さん。少し気になったことがございます」
神妙な面持ちの菫 に、遼二 はハタと彼を見やった。
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