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209 若頭の胸騒ぎ

 その日以来、遼二(りょうじ)はどことなくしっくりとしない胸のつかえが気に掛かるようになっていた。 「どうした、カネ。冴えねえツラのように見受けられるが――?」  今日もまた、遊郭街警備の打ち合わせをしながら(イェン)がそう訊いた。彼とは幼い頃からの腐れ縁とも言えるほどに互いを知り尽くした付き合いだ。僅かな顔色の変化でも互いに気付かない間柄ではない。 「――ああ、実はな。ちょいと気に掛かることが――」 「気に掛かることだ? 今回の騒動についてか?」  それともプライベートで何か悩みでも抱えているのかと(イェン)が顔を覗き込んでくる。 「いや――何と説明したらいいか、上手く言葉にならんのだがな。少し腑に落ちんというか……単に俺の思い過ごしなのかも知れんが」 「ほう?」  (イェン)はますます興味を引かれたのか、理由を聞きたげに流し目の視線を寄こす。別段隠す必要も無いので、遼二(りょうじ)も感じていることを素直に打ち明けることにした。 「実はな、今警護している男娼のことなんだが――」 「というと、瑞雲楼の御職のことか?」 「ああ――。数日前のことだ。ヤツから警護の礼だと言って晩飯に呼ばれたんだが。その時のヤツの様子が何となく胸に引っ掛かってならねえんだ」 「――? どう引っ掛かかるんだ」 「態度は極めて丁寧で、一生懸命酒を勧めてくれたりしたんだが。ヤツはどう見ても下手人に狙われるようなタイプには見えねえ――というかな。色眼鏡で見ちゃいけねえとは思うんだが、実際に発する言葉がそのまま本心なのかどうか――何となく胸がざわつくというか」 「ほう? というと、何かを企んでいそうな雰囲気を感じたということか?」 「いや――。そうとまでは言わんが、どちらかというと気丈なタイプに思えたというだけだ。まあ元々の性質からくるものかも知れん。夜が怖いとも言っていたことだしな。気丈に思えるのは御職としてのプライドの表れとも取れる。俺の思い過ごしかも知れん」  もしかしたら本心では皆と同じように不安を抱えているのかも知れないが、一妓楼を背負って立つ御職として、敢えて気丈に振る舞っているとも考えられる。もしもそうなら男娼としては敬服すべき責任感だ。  紫月(ズィユエ)も長い間この遊郭街で様々な苦悩を抱えつつも常に他人にはやさしく朗らかに接してきた男だ。ざっくばらんで愛想も人当たりも申し分ない明るさを忘れない男だが、そんな彼でも例の頭目・羅辰(ルオ チェン)への気遣いや恐怖心を持ち合わせていたし、加えて当時は実父の飛燕(ひえん)との父子関係にも悩んでいたわけだ。  あの昊凌(ハオリン)という男娼も似たような悩みを秘めているのかも知れない。弱いところを他人に見せずにがんばっているのだとすれば、見た目の印象だけで判断することなく、できる限り寄り添って支えてやりたい――遼二(りょうじ)はそんなふうに思うのだった。

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