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211 囮作戦

 そんな悩みを抱えている(イェン)らのことを見兼ねてか、伴侶である(ひょう)からは自分が囮になりたいとの申し出がなされた。 「囮作戦だと?」  冗談ではないと誰もが(ひょう)を止める。 「ですが、このままでは下手人さんも尻尾を出さないというのでしょう? (イェン)さんたちがおっしゃっている″紫月兄(ズィユエ あに)様と親しい者への嫉妬″が原因ならば、僕が(あに)様と懇意にしているところを見せつければ案外僕を狙ってくれるかも知れません」  (ひょう)曰く、自分がターゲットにされれば警備も一挙集中できるし、敵を捕らえやすくなるのではないかと言うのだ。  (イェン)としては危ない目に遭わせると分かっていてわざわざ(ひょう)を巻き込むことなどできるわけもない。だが、このままズルズルと成果の上がらない警備だけを続けていても皆が疲弊するだけだ。 「(イェン)さん、大丈夫です。僕では頼りないことは重々承知ですが、飛燕(ひえん)師匠のご指導のお陰で武術の方も以前よりは多少マシになってきています。それに、(イェン)さんたちが陰から守ってくださるわけですから、僕は安心です!」  だからどうかやらせて欲しいと言う。 「うむ――。分かった。では警護は俺とカネで完璧にする。お前さんには苦労を掛けるが、厚意に甘えさせてもらうか」  結局、囮作戦を決行することとなり、(ひょう)が頻繁に椿楼の紫月(ズィユエ)の元へ通う日々が始まった。  なるべく人目につきやすい場所で仲睦まじく茶を楽しんだり、各妓楼への巡回などにも同行するようにして(ひょう)が信頼重用されていることを広く知らしめることにする。敵の目的が嫉妬によるものならば、数日で何らかの行動を仕掛けてくるはずだ。  ところが、大っぴらに懇意の仲を見せつけたにもかかわらず、敵が(ひょう)を狙ってくる様子は全くと言っていいほど見受けられなかった。 「おかしい――。まるで動きが無えな」 「大っぴらにし過ぎたことで、かえって警戒心を抱かせてしまったか――」  せっかく(ひょう)が危険を承知で協力してくれたというのに、何の進展もないまま焦りだけが募っていった。やはり皇帝という立場も容姿も申し分ない美丈夫が伴侶である(ひょう)が、まかり間違って紫月(ズィユエ)と恋仲に陥る危険性など有り得るわけもないと思われているのだろうか。敵にとってはこれが囮作戦であるということがハナから見抜かれているのかも知れない。  せっかくの(ひょう)の厚意も無駄だったかと皆が肩を落とし掛けていた――そんなおりだ。  なんとまたもや白い(もや)と人影に襲われたという騒動が、今度は瑞雲楼で起こったという知らせが舞い込んできた。 「瑞雲楼だと!? もしやターゲットは御職の昊凌(ハオリン)か!?」  当初一番狙われていると思われていたのは他でもない、その昊凌(ハオリン)だ。いよいよもって本命に狙いを定めてきたわけか――あるいは今回もまた捜査を撹乱するだけの見せ掛けか。遼二(りょうじ)が急ぎ駆け付けると、昊凌(ハオリン)が焦燥感いっぱいといった表情で出迎えた。

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