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212 第四の事件
「鐘崎 の若 様! 助けてくださいッ! 出たのです……!」
昊凌 にいつもの堂々たる素振りは見られず、すっかり恐怖に怯えているといった具合でいて、遼二 の顔を見たと途端に半泣き状態で抱きついてきた。
「落ち着くんだ! 俺たちが来たからにはもう大丈夫だ。お前さんのことは必ず守るから安心しろ!」
「若 様! 若 様……申し訳ありません! ご迷惑をお掛けして……」
「いや――それよりお前さんも実際に幽霊を見たというわけだな? 場所はこの瑞雲楼の中でか?」
「そうです……私の寝所に現れたのです! つい先程、明け方のことでした。なんとなく寝苦しくて目を覚ましたら……白い靄 が立ち込めていて……窓の外に人影が……」
昊凌 は恐ろしくなってその場で大声を上げ、驚いた同僚や下男らが駆け付けたそうだ。
他にも妓楼内で靄 と人影を見た男娼が数人いたという。場所は様々で、妓楼内の階段付近だったり男娼らの暮らす寝所を出た廊下だったりしたそうだが、同時に数ヶ所で幽霊を見たという話に妓楼内では大騒ぎとなっていた。
(やはり真の目的はこの昊凌 だったということか――)
すぐに焔 と紫月 も駆け付けて、とにかくは詳しい話を聞くこととなった。その間、昊凌 をはじめとした幽霊の目撃者らは皆一様に怯えていて、状況を訊けども怖い怖いの一点張りで話にならない。まあ、全員が口を揃えて同じ靄 と人影を見ているのは確からしいので、手口はこれまでの騒動と同じと考えていいだろう。
とにかく遼二 を筆頭に鐘崎 組の組員らがここ瑞雲楼に詰めて、寝ずの番をすることとなった。
「焔 ――ちょいといいか?」
「カネ、どうした」
遼二 は内密に焔 へ伝えたいことがあるのか、彼を人目につかない廊下の端へと誘い出した。
「確かに俺たちは当初からこの瑞雲楼の昊凌 が狙われると踏んで警備を進めてきた。だが、案外これは目眩しという可能性も捨て切れん。俺が気に掛かるのは、瑞雲楼へ注意を引きつけておいて実際の狙いは冰 ということも考えられる。ここの警備は俺たちに任せてもらい、お前さんは冰 から目を離さん方がいいと思ってな」
「カネ――。確かに可能性は無きにしも非ずだな。気遣いに感謝する」
「うむ。それと俺はしばらくの間、組員たちとここで昊凌 の護衛に徹するが――お前さんにひとつ頼みがある」
「なんだ。何でも言ってくれ」
「うむ、護衛に紫月 の親父殿の手をお借りしたい」
「――飛燕 殿の?」
「ああ。親父殿には他の妓楼の警護で手一杯とは承知だが、ここしばしの間だけでいい。できれば誰にも分からないようにして密かに親父殿にこの俺の側で待機していただきたいのだ」
誰にも分からないようにとはどういったことだろう。さすがの焔 にもその意図が理解出来ずに首を傾げさせられることとなった。
「飛燕 殿に助力を願う自体は可能だが――カネ、お前さん何か考えがあるってのか?」
「ああ――。そいつは親父殿に直接会って頼みたいのだ。親父殿とお前以外、冰 にも紫月 にも――それに李 さんたちも含めて誰にも内密で願いたい」
「紫月 や李 にもか? まあ良かろう。では早速に飛燕 殿にお越し願おう」
「うむ、頼んだぞ」
こうして、早速に瑞雲楼へと重点を置いた警備体制が敷かれることとなった。
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