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214 雷鳴
その日、地上の街はどんよりとした厚い雲に覆われ、まるで皆の心の重さをそのままに今にも大粒の雨が降り出しそうな天候であった。
九龍城砦地下街・鐘崎 組の邸ではひっそりと弔いの設えがなされ、棺の側では紫月 が魂の抜けた人形のようになってうなだれていた。むろんのこと、焔 や冰 、飛燕 に菫 といった仲間たち全員が失意の面持ちで肩を落としていた。周 家からも頭領 の周隼 と嫡男の周風 も駆け付けて、鐘崎 組若頭の死を悼んでいた。
誰もが未だに現実を受け止められずにいる中、特に紫月 にとっては衝撃が止め処なかったようで、食べることも寝ることもせずに棺に寄り掛かったまま茫然自失状態でいた。
「紫月兄 さん……せめて白湯だけでもお口になさいませんと……お身体が持ちません」
菫 が涙で腫れた目を擦りながら飲み物を届けようにも、紫月 は誰の問い掛けもまるで耳に入っていないかのようでいて、視線は定まらずにどこを見るともなく瞬きすらままならずにいる。
「紫月 ――そろそろ法要が始まる」
焔 が抱き起こそうとするも、紫月 は無意識にその腕を振り払っては自らの両腕を広げて誰にも触れさせまいとばかりに棺を覆った。
「寄るな……誰も遼 に近寄るな……連れてなんか行かせねえ……ぜってえ、何処へもやらねえッ……!」
まるで気が違ったようにして焔 にすら牙を剥く勢いでいる。
法要の為に僧侶が先程からずっと待機しており、弔問の列も隣のカジノ区まであふれる勢いで地下街の住民らが訪れてくれている。
「紫月 ――皆さんをお待たせしているのだ。気持ちは分かるが、さあこちらへ来るのだ」
父の飛燕 によって半ば強引に引き摺られ、棺から引き離される。その瞬間に、今までは茫然自失で枯れ果てていただろう大粒の涙が滝のようになって色白の頬を流れて落ちた。
◇ ◇ ◇
法要が始まると、しばらくして地下街にも響くほどの雨音と雷鳴が轟き出した。地上は大雨であろう。分厚い雲に覆われていた午前中の天気がついには雨風をもたらしたのだ。
まるで天までもが若頭殿の死を悲しんでいるようだ――と、弔問に訪れた人々は口々にそんなことを言っては互いに慰め合っていた。
そんな中、弔問客も途切れ始めた列の最後には、瑞雲楼の昊凌 の姿があった。彼は自分のせいで遼二 が命を落とした責任を感じていると言って、この場に顔を出す資格すら無いと恐縮していたそうだ。
「ですが――私を守ってくださった若 様に……せめてお別れのお線香だけでも上げさせていただきたく……ご無礼を承知で参りました」
線香を手に神妙な顔つきで深く一礼をする。葬儀の会場には既に焔 ら関係者以外誰もおらず、昊凌 も弔問を終えてこの場を後にしようとした時だった。
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