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「…………!」
巾着から視線を外せないままで昊凌 はカタカタと身を震わせた。
「……これが……何だと言うのです……? 私には見覚えなど」
「無えわけねえだろうが!」
普段からは想像もつかない紫月 の怒号にさすがに観念したのか、昊凌 はそのまま黙り込んでしまった。
――と、そこへ棺から何やらガタゴトと音が鳴り出したと思ったら、中から人の手と思えるものがグイと蓋を押し上げた。
――――!?
「な……なっ、なっ……! う、うわぁーーー!」
半身を起こして顔を覗かせたのは、なんとしたことか亡くなったはずの遼二 だ。死化粧で顔は蒼白いものの間違いなく生きて動いている。無表情のままクルリとこちらを向いた様子に昊凌 は更なる絶叫を上げて後ずさる。あまりに仰天してか、ついには腰を抜かして床へとへたり込んでしまった。
「なッ……なっ……! ど――してこいつが」
思わず口走ってしまった「こいつ」というひと言に、待ってましたと言わんばかりに紫月 が鋭い視線をくれた。
「随分な言いようじゃねえか、昊凌 。てめえはこの若頭さんにずっと警護をしてもらってた身だろうが。それを「こいつ」呼ばわりとはどういう了見だ?」
こいつ――そのひと言だけで、所業を認めたも同然だった。
遼二 は棺から身を起こすと、焔 に手を差し伸べられながら外へと這い出た。
しっかりとした足取りで昊凌 の前へと歩み寄る。
「俺が生きているのがそんなに不思議か? それとも――惜しいといったところかな」
薄い苦笑を浮かべながら、へたり込んだまま立ち上がることさえ出来ずにいる昊凌 を見下ろした。
「……な……んで……本当に……死んじゃいないってのかい……?」
どうして助かったのかと瞬きすらままならずに硬直している。
「実は前々からお前さんが本星じゃねえかと睨んでいたのでな。焔 に言って一芝居打ったというわけだ」
「芝居……? じゃあ……死んだっていうあれは……アンタ……いや、若 さんの芝居だったってのか……」
「お前さんの警護をしていた時だ。衣から微かにドライアイスの臭いがすることが幾度かあった。俺たちは早い段階で白い靄の正体がドライアイスじゃねえかと踏んでいた。そんな中、お前さんの妓楼で幽霊騒ぎが起こったんだ」
「……じゃ、じゃあ若 さんは最初からこの私を疑っていたと……? にもかかわらず素知らぬふりで警護を続けてたっていうのか」
「お前さんが下手人かどうかは正直半信半疑だった。だから今回のことは賭けでもあった」
昊凌 が下手人ならば遅かれ早かれ何らかの動きを見せるはずだ。ただ、ここしばらくは昊凌 の周辺には遼二 を含めた警護隊が張り付いてもいたわけだ。何か事を起こすには警護の目を盗む必要がある。例えば催眠剤を盛った隙に寝所を抜け出す可能性などを考えて、警戒の目を光らせていたわけだ。ゆえに遼二 は組員任せではなく、自分自身がこの昊凌 の護衛を担当するようにしていたのだった。
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