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 そんな態度に誰もが呆れ返る中、遼二(りょうじ)昊凌(ハオリン)の目の前に転がっていた巾着を拾い上げては器用に利き手の上でポンポンと転がしてみせた。 「お前さんはそこに居る客の男に入手させた薬物――つまりはこの幻惑剤を使ってこれまでの殺害を行なってきたんだろう? 普通の人間がこいつを盛られれば意識が朦朧として身体の動きが封じられる。そうして動きを封じた上で高所から突き落としたり(かんざし)で刺し殺したんだ。だが――俺の時は残念ながら失敗だったな」 「……嘘だ……! お、お前は……私が淹れた茶を飲んだはず! 私はお前が飲み干すところをこの目で見たのだ!」  これまではどうにか善人を装っていたものの、遂には『お前』呼ばわりだ。変わり身の速さという点では堂々たる悪党ぶりと、ある意味感心させられる。 「ああ、あの茶のことか。むろん飲んだとも」 「……だったらどうして」 「お前さんが勧めてくれた茶の香りでな。覚えのある幻惑剤が仕込まれていることに気付いたんだ。こいつは毒物の中でも割合珍しい代物でな。体内に含んだ後、ほんのわずかの時間が経てばすっかり痕跡が消えちまうという希少価値の高い物だ」  入手にはさぞかし困難を強いられただろうに――チラリと、客の男を見遣りながら遼二(りょうじ)は苦笑を浮かべる。 「三年前に亡くなった花香(ホアシャン)から薬物反応が出なかったのはその為だろう。医者が検死する頃には何の痕跡も残ってねえわけだからな、死因が特定できなくても当然だったというわけだ」  昊凌(ハオリン)遼二(りょうじ)の言葉を聞きながら、そういえばこの毒薬を流した客の男も確かに入手にてこづったと言っていたのを思い出した。 「……ッ、仰せの通りさね! けど……その薬は無味無臭のはず。なぜ幻惑剤と気付いたんだ……。その上、即効性のはずさ! 茶を飲んだ時点で身体の自由は奪われたはずなのに――」  あの時、確かにこの若頭は即座にガクリと膝をついては苦しそうに身悶え出したはずだったと思い返す。 「あれは単なる芝居だ」 「……芝居? じゃ、じゃあ飲んだと見せ掛けて私を欺いたっていうのかい……?」 「いや――。確かに茶を飲んだのは事実だが、俺の身体には生憎毒物に対する耐性があってな」 「耐性だって……?」 「俺はいつどこで危ねえ薬物を盛られても対処できるように、ガキの頃から様々な毒物に少しずつ身体を慣らしてきた。無味無臭と言うが、そいつぁあくまで何の知識も耐性も無い人間に限っての話だ」 「……アンタにはそのニオイが分かったっていうのかい?」 「分からなきゃ俺はとっくに三途の川を渡ってるだろうぜ」 「……アンタ、いったい……」 「それがこの世界で生きていく為には必要不可欠だったからな」  巾着を医師の鄧浩(デェン ハァオ)に手渡しながら遼二(りょうじ)は再び昊凌(ハオリン)を見下ろした。 「話してもらおうか。お前さんが俺を狙った理由(わけ)を――な」  既に証拠も上がっている。言い逃れの出来ないこの状況だ。これまでの悪行についても洗いざらい吐いてもらおうか――と、この場にいた全員に凄まれて、昊凌(ハオリン)はすっかり観念したようだ。 「――いいでしょう……どうせそこにいる客からも文言は取ったんだろう? だったらもう逃げようがないね。アンタを狙った理由も……これまで私が手に掛けてきたヤツらを消さなきゃならなかった理由も……全部話すさ。だけどその前に――」  ひとつ教えてくれないか――と、昊凌(ハオリン)遼二(りょうじ)を見上げた。

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