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単に″四六時中張り付いている邪魔な警護人″というだけではなく、刃物を向けられた際、個人的に強い殺意を抱かれていることをひしひしと感じた。『紫月兄 様を盗られてたまるものか』という言葉から察するに、この昊凌 は紫月 に恋情でも抱いていたというわけだろうか。つまり、菫 が危惧していた通り、紫月 と親しくしていた男娼らを殺害した理由もそこにあるということなのか。
いずれにせよ、遼二 を含め一連の殺害事件はすべて見ての通り″妖 の仕業″だと決定付ける為だったのだろうが、そう上手くは思い通りにならなかったということだ。
「実際――妖 で人が亡くなるわけもねえ。一等恐ろしいのはそんなことを企むお前さんのような人間だろうよ」
遼二 に見下ろされて、昊凌 は悔し紛れの歯軋りを繰り返した。
「言え。俺はともかく、なぜ仲間とも言える男娼らを殺害した」
「ふ……ん! 誰が仲間だって? 冗談じゃない! 私ら男娼の世界はそんな甘いことを言ってちゃ生きていけないのさ! 仲間どころか妓楼に生きる人間は皆敵も同然さ。蹴落としてなんぼの世界だからね!」
これにはさすがに黙っていられなかったのだろう、紫月 が信じられないといったように身を震わせた。
「昊凌 ! てめえ、そんなふうに思っていやがったのか! 皆んな同じ釜の飯を食う仲間じゃねえか!」
「――同じ釜の飯を食う仲間だって? だから兄 さんは甘いってんですよ!」
「な……んだと……?」
「私の前の御職だった花香 と星海 もそうでしたよ。客にも同僚にも親切で誰からも尊敬されてるってな態度が鼻についてならなかった! あんな甘ちゃん連中が御職じゃあ、いつまで経っても妓楼の格は上がりゃしない」
「そ……んな理由でヤツらを殺したってのか……」
「そうさね。この際だから詳しく教えて差し上げようじゃありませんか。まずは三年前に葬った花香 。あいつを殺 った時もこの幻惑剤を飲ませたんですがね。その後に刺し殺すつもりで刃物を向けたら――あの野郎ったら恐怖でスっ倒れてそのまま逝っちまいやがった。私が手を汚す暇もなく勝手に死んだのですよ!」
昊凌 はまるで自慢げに笑いながら先を続けた。
「二年前の星海 はもうちょっと気概があったねぇ。刃物で脅しても死んでくれなかったから、仕方なく突き落とすことにしたんですよ。城壁が脆くなって穴が空いてるのを思い出しましてね。都合良く利用させてもらったわけですが、手口を変えたお陰で疑われずに済んだのは幸運だったねぇ。だから今回もまた別の殺し方にしようと、簪 での殺害に決めたわけです」
聞けば聞くほど怒りが込み上げてくる――。特に紫月 にとっては到底赦し置けないようだった。
「なぜ……ヤツらを殺そうだなんて思った!」
理由を聞かずにはいられないとばかりに拳を震わせる。
「なぜですって? 決まってるじゃあないですか。あいつらに生きてられたんじゃ、いつまで経ってもこの私に御職が回って来ない。それに――親切だけが売りのあんなヤツらのせいで、私のような才ある者が埋もれているんじゃ妓楼にとっても為にならないでしょう? それを証拠に私が御職になってからは売り上げだって鰻上りだ。紫月兄 さんもよーくご存知のはずですよ?」
これ以上戯言を聞くのも反吐が出る思いだったが、とにかくはどんな馬鹿げた理由であってもすべて聞かなければ亡くなった男娼らが浮かばれない。紫月 は怒りを抑えて続きを待った。
「だったら……今回の翠萌 を殺害した理由は何だ! ヤツはてめえとは妓楼も別だし、御職を争う立場にもない新人だった! それなのになぜ!?」
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