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222 春告鳥
「やはりここだったか――」
偽の葬儀所を後にした紫月 を心配して追って来た遼二 がそう声を掛けた。ここは遊郭街にある亡くなった者たちの廟だ。昊凌 の手によって葬られた者の他にも、病で命を落とした男娼らの魂が納められている。
「遼 ――。すまなかった……。黙って出て来ちまって」
お前には謝らなければならないことがたくさんあったのに――と、静かに瞳を伏せる。
「いや、いいんだ」
紫月 にはどうやっても感情が抑えられなかったのだろう。あの場で暴れることも昊凌 を罵りぶちのめすこともせずに自らの内に怒りを押し留めただけで精一杯だったはずだ。独りになって堪え切れなかった涙に暮れたのだろうことは聞かずとも承知だ。
「それよりお前さんの気持ちを思うと――な」
男遊郭の頭として、昊凌 も含めてこの街に生きる男娼らを大切にしてきた紫月 にとっては、今回の騒動は衝撃だったろうし、何より亡くなった者たちを救ってやれなかったことにも大きな責任と後悔を感じていることだろう。遼二 にはそんな心の中が痛いほど分かるから、辛くて歯痒くて仕方ないのだ。
「おめえの――行き所のない怒りを鎮めてやることもできねえ。亡くなった男娼らを生き返らせてやることもむろんのことできやしねえ。何もしてやれねえ自分が情けねえ」
遼二 もまた、男娼らの位牌の前で静かに手を合わせた。その姿にまたもや堪えていた涙があふれ出す。
「ありがとな、遼 ――。こいつらも――下手人が挙がったことで、きっと天国で安心してくれてると思う」
仇を討ってやることはできなかったが、これで勘弁してくれなと言うように紫月 も今一度手を合わせた。
「な、遼 。今回――おめえと皇帝様からあの昊凌 が下手人だって聞いた時は正直驚いた。けど、それより何より昊凌 の部屋でおめえが横たわってるのを見た時は血の気が引いたぜ」
「ああ……すまなかった。策を成功させるには必要最低限の人数で秘密を分かち合うべきと思ってのことだ。知る者が多ければ例えその気がなくとも不用意に話が漏れねえとも言い切れん。そんなわけで焔 とおめえの親父さん以外には誰にも知らせずにいたからな。驚かせてすまん」
「ん、全くだよ。おめえほどの男がそう簡単に殺 られるわけはねえって思ってはいたが、実際あの現場を目にしたらさ。……正直この世の終わりってか、身体中の力が抜けちまって立ってらんなかった。すぐに皇帝様が『これは下手人を挙げる為の″やらせ″だから心配要らねえ』って教えてくれたから良かったけどさ、そうでもなきゃ……俺ァ……おめえの後を追っちまうところだったぜ」
「何を馬鹿な――」
「マジだぜ。おめえが逝っちまったって思ったあの瞬間の気持ちは――どう言やいいのか……こう、身体中の血が流れなくなっちまうってのかな――なんかもう自分が生きてるのか死んでるのかも分かんねえっつか」
とにかく言葉じゃ言い表せねえくれえの衝撃だった――そんなふうに言いたげな視線がわずかに潤んでは見上げてくる。
「紫月 ――」
「ホントに……脅かしやがってー!」
「――すまん」
だが、そんなふうに思ってもらえたなんて――。遼二 にとっては信じ難い驚きともいえる。
「……っとによー、もうあんな思いをすんのは御免だぜ?」
「ああ。悪かったと思ってる」
ふと、二人の間に会話が途切れる。
どちらからともなく互いの瞳を見つめ合い、視線を外せないまま瞬きさえもできないままに時が止まる――。
「なぁ、紫月 ――。さっき昊凌 ってヤツが言ってたことの中に――一つだけ間違っちゃいねえことがあった。ヤツの言うように、俺はおめえに気持ちを傾けていて……だが告げられずにいたのは事実だ」
「……遼 。あ……んな野郎の言うことなんか」
「ああ、確かにあんな野郎に言われるってのは癪だ。だが、俺とは殆ど接点のなかったヤツのような男の目にも――俺がおめえに友情以上の想いを抱いていることを気付かれたくれえだ。傍 から見ても分かるような気持ちをおめえ自身に告げることもできずに、そのくせ何だかんだと理由をつけちゃ会いに行っていたことは否定できねえ」
「……遼 」
「俺ァ、そんな意気地のねえ野郎だ。昊凌 ってヤツのことをどうこう詰る資格なんざ無えのかも知れん」
「ンなこと……! それを言うなら俺だって!」
見つめ合ったまま、しばし交わす言葉も途切れて時が止まる。
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