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第4話
どうしてそうなったか全く分からないが、さっき川端さんからもらった「スーパーデラックス媚薬」がカクテルに入ってしまった。
しかも全部投入したようだ。
それに気がついたのは、イケメンのお客さんが会計をすませて帰った後、片付けも終わろうとしていた時に、空になったその媚薬の瓶を発見してしまったからだった。
『これはまずいどうしよう』と朔也は一瞬で青ざめた。頭の中は真っ白。
もしかしてどこかであの人が倒れているかもしれない。
心臓が止まってたりしたら、殺人犯になってしまうんじゃないか。お酒と一緒にのんでも大丈夫なんだろうか?
落ち着け自分。大丈夫。川端さんは体に有害なものは入っていないと言っていた。
不安な気持ちを必死に落ち着かせ、生ゴミの袋をまとめながら裏口まで持って行く。
彼が帰ってしまってから30分は経っている。調子が悪くなったら何か知らせが来るだろう。あのお客さんは店の名刺を持って帰ったし、帰りには機嫌よくありがとうとお礼を言って出ていったではないか。
一応使用説明書を読まなければ、そう思い急いで裏通りにゴミを捨てる。
この店の2階に朔也は部屋を借りていた。
格安で貸してくれる代わりに暇な平日の閉店業務を任されていた。
急いで部屋に帰ってあの媚薬の取説を読もうとゴミ置き場からもどる時、見覚えのある後ろ姿を発見してしまった。
電柱の下にうずくまるその人影は、まさしく先程のお客さん。気分が悪くなり、嘔吐しているようだった。
知らない振りはできない。全て自分の責任だ。
「お、お客様……大丈夫ですか?」
できるだけ声が震えないように冷静に話しかけた。
「すまない。どうも酔ってしまったようだ」
話すのも辛そうだ。背中をさすって彼が少し落ち着くまで待つ。
「よろしければ2階に部屋があります。休憩していってください」
彼に肩を貸して二階の自分の部屋まで連れて行った。
足を引きずるように彼はよろよろと朔也の部屋まで上がってきた。
そこが休憩室ではなく、個人の自宅だと気づき申し訳なさそうに「すまない」ともう一度彼は言った。
スーツの上を脱がせてネクタイをほどきシャツのボタンを開ける。ベッドに横になってもらって、タオルを絞って彼に渡し、ペットボトルの水を差しだした。
「あの、バスルームはすぐそこです。自由に使って下さい。水をたくさん飲んで吐きたくなったら全部吐き出してください」
もう思う存分吐いてくれと思った。胃の中を空っぽにしたら少しは症状も和らぐだろう。
店の戸締まりをしなくてはいけない。媚薬の取説もまだ店の中だ。彼を部屋に残して朔也は急いで店まで戻った。
やっぱり何か変なものが入ってたんだ。どうしよう……朔也は店の中で媚薬の使用上の注意を読んだ。
効果は性欲増進・精子量の増量、勃起力向上。成分は亜鉛、マカやニンニク……特に問題はなさそうだ。聞いたことのない横文字の物質も入っているが……
使用者の声を読んでみると、みんなが満足しているという事はわかった。
24時間勃起状態が続くとか、30㎝まで大きくなった人がいるらしい。
……いやいやそんなわけないだろう。
大げさな宣伝文句ばかりが目につくが、そんな怪しい媚薬を飲ませてしまったのは自分。
とにかく責任は自分にある。
彼が今どんな様子か見るのも恐ろしいが、朔也は部屋に戻るしかなかった。
彼はシャワーを浴びているようだった。
吐いてしまって体が汚れたのかもしれない。
罪悪感にさいなまれる。
全てあの媚薬のせいだと思うと申し訳無さが込み上げてくる。弁解の余地がない。
たまにそういうお客さんがいるので簡単な着替えを店で用意している。
シャワー中の彼を部屋に残したまま、急いでまた店に戻り男性用の下着とシャツを探した。
シャツはあったが下着は見当たらない。
流石に自分のはきたおしたパンツを渡すわけにはいかないだろう。
仕方ない、急いで店から出ると向かいの通りのコンビニまで走る。
5分で着く距離にコンビニがあるので着替えのパンツを探す時間より買った方が早いだろう。
息を切らせ部屋に戻ってドアを開けると、彼はバスタオルを巻いてベッドの淵に腰かけていた。
「良かったです。気分は良くなりましたか?」
そう問いかけながら買ってきた下着を手渡そうとした時、朔也は彼が媚薬の取扱説明書を手に持っている事に気がついた。
朔也は固まった。
「……おかしいと思ったんだ。普通ならあんな酒量で酔ったりしない」
彼は恐ろしくゆっくりと低い声で朔也に問いかける。
右手には空になった媚薬の瓶。
「男同士でそういう物があるのか知らないが、美人局とか?……もしかして窃盗目的だった?」
彼の目が怒りに燃えている。
朔也は返す言葉もなく、その場で土下座した。
「申し訳ありませんでした!」
「なに?俺とやりたかったの?」
「いや、え?やりたかったとかではないです」
そもそも俺はノンケだし、この人もゲイじゃないだろう。
「なに目的なのか……全く理解に苦しむ」
朔也はお客さんから頂いた媚薬が間違ってカクテルに入ってしまった事を説明した。
そして平伏。
「見ろよ、これ、風呂場で何回抜いたと思ってんの?……また勃ってきたし」
バスタオルで隠されてはいるが形は明らかだ。
「短小改善、ペニス増大って書いてあるが、俺には全く必要ない」
タオルの下がどうなっているのかリアルに想像したくはないがコクコクと頷く。
とにかく何とかしなければならない。
怒りの持っていき場を失った男性客は、深いため息をつき、またもやバスルームへ向かった。
「お手伝いします!」
申し訳無さから朔也は申し出たのだった。
「お役に立てる道具があると思います!」
朔也は川端ボックスを男性の前に置いた。
中には今までもらったアダルトグッズがパンパンに入っている。
勿論どれも未開封だ。
「全部新品ですのでよろしければ」
逆に使用後の物をすすめられたら驚くぞ、とぶつぶつ言いながら彼は箱の中を見た。
「なに?君こういう物集めてるの?そっち系の仕事してるとか……幼く見えるけど、もしかしてプロ?」
プロとはそういうサービスを提供する男性の事だろう。
違いますと首を振るが、彼は大人のおもちゃを興味深そうに吟味していて朔也の方には目を向けない。
少しでもそういった道具が彼の役に立てばいいのだが。
とにかく彼の性衝動を何とか納めなければという使命感が沸きあがる。
「こういうのはあまり使ったことがないから俺もよくわからない」
そう言うと彼はベッドにドサッと横になり。
「じゃあ頼むわ」
と言った。
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