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第5話
大人の便利グッズを使って、ご自分で処理して頂くつもりだったが、その考えは相手には伝わっていなかった。
手伝うと言った手前引くに引けず、朔也はネットで見たことのあるテクニックを駆使し、手にローションをつけて頑張ったわけだが。自分の物ならまだしも、他人のそれを触るのが初めてなので、もう大変なことになった。
「いくらなんでも下手くそ過ぎる……」
絶望的な彼の言葉にショックをうけた。
朔也は涙ながらに。
「申し訳ありません!よろしければ、ご自分でお好きなようになさったらよろしいかと……」
ローションでベタベタした手をタオルで拭って、川端ボックスからアダルトサイトでよく見る女性器をかたどった物を手渡した。
後は自分で処理してくれたらいい。朔也はただただ頭を下げて謝るばかりだった。
「あのさ、なんで俺が他人に見られながら自慰するんだよ、そんな趣味ないから」
確かにそうだ。それは失礼だから僕はさっさと退出しよう。そう考えて立ち上がると。
「いいわ、脱いで」
と、彼。
「……え?」
上京する時、それまで付き合っていた地元の同級生と別れた。
お互い遠距離恋愛になるため、このまま関係を続けていくことが難しかったからだ。
納得の上、別れた二人だったが相手の事は好きだった。
ただ遠距離になってまで続けようという熱い気持ちは持てなかった。
彼女も朔也も初めて付き合った相手で高3の冬、最後に流れで体の関係を持った。
それはとてもぎこちなく、あっけないものだった。
初体験を済ませておくということは、東京で新しい生活をスタートさせるために必要なタスクのひとつだった。
朔也にとっては、東京で田舎者扱いされたくないという子どもじみた考えからの行為だった。
後にも先にも経験はその1回だけで、何故か24歳の今も彼女はできなかった。
アルバイト先のバー『PROBE』はマスターとその友人たちで始めたバーで、彼らは皆、揃いも揃ってイケメンだった。
ちょっとした芸能人よりもかっこいい男前に囲まれて働いた。それを目当てに女性客も極上の女の子たちが集まってきた。マスターらは客に手を出さなかったし、いつもスマートに女性を扱っていた。
後で面倒なことになるのは目に見えてるからと、女性を口説いたりしなかったので、自ずと朔也もそれを真似て、そこらの女には靡かないぞというスタンスで働いていた。
幾度となく告白されたにもかかわらず、彼女ができなかった原因は、周りにイケメンが多かったからだと思っている。
朔也の目標は司法試験に合格する事。女性は見ているだけで十分だと満足してしまい、実際自分が誰かと付き合う事は考えなかった。
だから朔也の夜のテクニックが上達する術もなく今にいたる。
「お前、いや、君……名前なんだっけ?」
「青木です」
「下の名前」
「あ、朔也です」
男性客は起き上がると朔也を見つめて。
「朔也君、君は可愛い顔しているし色白だ。肌もきれいだから、まぁなんとかなるだろう」
彼はニヤリと笑った。
朔也は顔面蒼白になった。……もはや逃げ道は無い。
「あの、その……ですね、やり方がわからなくて、本当にもう素人で勉強不足で、どうしようもなくって」
「脱げ」
ひいぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!
「もう、あれです。何でもしますのでお尻だけは勘弁して下さい。この際……口でもご奉仕させていただきますので、その……初めてなんで」
「あきらめろ」
もう逃げられない事はわかった。
後は覚悟のみだ。
額から冷たい汗が流れる。
血まみれ案件だけは避けなければならない。
服を脱ぎながら頭の中で考える。自分はバカではないのだから、先手を打てばいい。
危害が及ぶ前に相手を満足させればいいだけだ。とにかく何が何でも先にイカせればいい。
朔也は素っ裸になると、彼の上に覆いかぶさった。
「ちょ、なに……やる気になってんの?」
男性は朔也の上半身を受け止めると、少し距離を取って「落ち着け」と言った。
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