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第6話
その夜はとにかく凄かった。
何と言えばいいのだろう。例えるならばプロレス。
無茶な体勢で関節技を決められているような、そんなハードな運動が明け方まで続いた。
最後は気絶するように布団に倒れ込んだ。朔也が意識を取り戻したのは昼前だった。
玄関の扉があく音で目が覚めた。体はぐずぐずで所々痛みがある。骨がなくなったのではないかと錯覚してしまうくらのスライム状態。
「起きたか……体、大丈夫?」
彼は買い物するために外へ出ていたようだった。
朔也は頷く。重たい体を起こした。
シーツは乱れて布団はぐちゃぐちゃだ。部屋の中は荒れ放題だった。
かろうじて昨夜出た使用後のゴミはビニール袋にまとめられているようだった。
「シャワーを借りた。近くに百貨店があったからシャツとネクタイを買ってきた」
そう言って朔也にデパ地下で買ってきたらしい弁当とドリンクを渡してくれた。
「ありがとうございます」
いえ、どういたしまして。と言いながら彼は新しいシャツに着替えだした。
「すまないが、これから仕事に行かなくてはならない。このシャツとネクタイ汚れたから処分してもらってもいいかな?」
「はい」
男の人がスーツに着替えるのを近くで見るのは初めてだ。ネクタイを結ぶ姿に色気を感じる。
背が高くて引き締まった体。広い肩幅、厚い胸板。
昨日ずっとこの人に寝技を掛けられていたんだと思うと、自分の体力がよく持ったと褒めてやりたい気持ちになった。
彼は媚薬の入った袋と瓶を手に取った。
「これ、持って帰るよ。成分分析する。凄い効き目だったし副作用とかが気になるから」
勿論ですとコクコク頷く。
副作用ってなんだろう。一応明け方にはもう下半身は落ち着いたようだった。
けど、もしかしたらずっと勃ち続けるとか?逆に勃たなくなるとか?そういう副作用があるのかもしれない。
怖すぎる。
申し訳なさ過ぎて俯くしかなかった。
彼はずいずいと近づいてきたかと思うと、スライムの額にキスをした。
「……行くわ」
そう言って、あっという間にドアから出ていってしまった。
朔也は彼を見送るでもなく、ベッドにまた倒れ込んだ。
男同士のそれが、こんなにも凄い事だなんて思いもよらなかった。
それはとにかく想像を絶する初体験だった。
彼は男相手は初めてだと言っていたが、もうなんだか職人のような手さばきで、朔也を喘がせた。
自分が気持ちよくなるなんてありえないと思っていたが、まさかの自分はそっちに才能があったようだ。
男性同士の行為は女性とのそれよりも数段気持ちがいいとは聞いたことがあった。
実際経験してみるのと想像してみるのとではかなりの違いがある。
新しい扉を開いてしまった驚きと戸惑いで頭がちゃんと働くなっている。
いや、駄目だ、扉を開いてどうする。
朔也は正気を取り戻そうと、疲れ切ってふにゃふにゃになった腕に力を込めて自分の体を起こした。
事故だ、まさしく事故。
普通に考えるとやり逃げされたと言っても過言ではない。
彼の名前をきかなかった。職業も年齢も住んでいる場所も知らない。
後からしつこく、これをネタに脅されたらたまったもんじゃない。
もう体を差し出したんだから勘弁してほしい。
ラインを交換したわけでもなかったから、彼ももう会わないつもりなんだろう。
24歳の朔也にとっては一回り近く離れた大人の男性だった。
一夜のお遊びだと思ってくれるだろう。
朔也はふーと長いため息をついた。
気持ちよかったとか興奮したとかはただの思い込み、とにかく激しかったという事だけ記憶に残そう。
彼なりに気を遣ってくれて、十分にほぐされたし、ローションなんかもたっぷり使ってくれた。
おかげでケガはなかったが、媚薬の効果か、荒々しい息づかいと、大胆な抽挿はとどまるところを知らず、朔也の身体は所々にうっ血した箇所が残ってしまった。
服装からしてかなりエリート階級の紳士だった。にもかかわらず、まるで女に飢えているかのような抱き方だったのではないか。肉食系と言う言葉を体感した気分だった。
ただありがたい事に、気持ち悪いとか嫌だったわけではなかったのが救いだ。
早く忘れてしまうに限る。
そう考えながら彼が買ってきてくれた紙袋の中を見ると、そこには弁当の他に痔の薬が入っていた。
これをイケメン男性が薬局で買ったのかと思うと、結構度胸があるなと感じた。
今日は土曜で大学は休みだ。朔也は四つん這いで起き上がるとバスルームへ向かった。
水を飲もうと冷蔵庫を開けると、中にポテトサラダとサンドイッチ、マスクメロンがまるごと1個入っていた。あの人デパートでどれだけ買い物したんだろう……食べきれない。
洗濯をして、掃除をして熱いお風呂に入って。お気に入りの映画を観ながらデパ地下弁当を食べる。1日中家から出ずにゆっくりする。
そう決めると朔也はきれいさっぱり昨夜の事を頭から追い出した。
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