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第17話

翌日から堂本さんに頻繁に飲みに誘われるようになった。特別に予定がない日は仕事帰りに会うようになっていた。 けれど朔也は常に仕事に追われ、残業も日をまたぐことさえあったので、なかなか時間が合わなかった。 「労基案件じゃないか」と堂本さんにも言われたが、朔也の仕事量が多いだけで他のみんなはそれほど残業しているわけではないと伝えた。 愚痴を言うのはなんだか恥ずかしいし、仕事のできない人間のようで嫌だった。 仕事が遅いわけではないが、新人だし覚える事も沢山あって、先輩の木村さんも一緒に残業しているので先に帰ることはできなかった。 堂本さんと時間が合えば、お酒や魚、粉もん、串カツといろいろ美味い店に連れて行ってもらった。休みの日には、これぞ大阪というようなテーマパーク、お笑い、賑やかな場所に遊びに行った。 朔也は堂本さんと会える日はとてもわくわくし、楽しみで嬉しかった。 だけどそのうち、お互いの仕事が忙しくなり、堂本さんの出張などが入ると会う頻度も少なくなった。 毎日疲れきっている朔也を気遣って「体を休めるように」とハードな残業が続いた翌日は、休日でも誘われなくなっていった。 部屋に誘われたことはないが、堂本さんは電車を使わずに出勤できる場所にマンションを買って住んでいる。 億越えだろうと思った。投資目的もあるからといわれると、さすがだなと感心した。 朔也は賃貸だったが、以前東京で住んでいたところが狭すぎたので6畳ワンルームでも快適に暮らしている。 そもそも寝に帰るだけの部屋なので、居心地重視ではなく、通勤重視で借りた部屋だった。 堂本さんは、朔也が会わなかった3年間、どこで何をしていたかを知りたがった。 司法試験に合格したらすぐに司法修習生になり日本各地にある修習地で1年間勉強する。朔也は釧路に行っていた。 彼も弁護士なのだから同じように修習地で1年過ごしているはずだ。 そこで出会った仲間や過ごした時間はかけがえのない思い出になり、今でもその時知り合った弁護士達とは連絡を取っている。 そんな事を話すと、知らなかった事を聞けたので嬉しい。朔也がいるかもしれない修習地を探してみたりもしたけど、さすがにストーカーみたいだと思ってやめたと言っていた。 少し面白くてくすくす笑うと、堂本さんに頭をとんと押さえられた。 頭一つ分背の高い彼と一緒に居ると、自分が子供のように思えてしまう。精一杯背伸びしても届かない自分より高い位置にいる存在だとつくづく感じた。 遅くまで飲んだ帰りは、まだ一緒にいたいと思ってしまう。友達と恋人の境界線を超えるのは難しかった。 会わなかった間、彼は他の女性と関係をもったりしたのだろうか?もしかしたら相手は男性だったり。 「堂本さんは、他の人と……その。何年も会わなかったので、その間恋人いたのかな?とか思って」 35歳の彼がずっとひとりで過ごしていたとは思わないが、いたらいたでなんか変な気持ちになる。 「何人かいた。でも続かなかったな」 「……そうですか」 朔也の複雑な表情に、おやっ?っという反応を示した堂本さん。 「俺も、やっぱり男だから性的な欲求はある。淡白な方だとは思うけど」 朔也は最もだというように、コクコクと頷いた。 自分といた時は、淡白?だったようには思わなかったけど…… 今度、彼と始めるのなら、体だけの関係は嫌だった。だからまずお互いの事をもっと知り合おう。 あまりにも友達感覚で会っていたのでつい忘れてしまいそうになる。堂本さんは体の関係も求めているんだと再認識させられた。 朔也にも性欲はある。女性に対してか男性に対してかそれは定かではなく。3年前堂本さんと関係を持ってからはアダルト動画をみる時に、ゲイのサイトを検索するようになっていた。 堂本さんの体格によく似た男優を探して、お気に入りに登録してしまった時には、自分が危険なゾーンに入ってしまったと確信したが、周りにいる他の男性に抱かれたいと思ったりはしなかった。 もし男性に抱かれるのなら、堂本さん以外は考えられなかった。 今、堂本さんと会うたびに手を握りたいとか、キスしたいとか思っている事は内緒だった。

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