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第32話

「じゃぁ、まずは、話を聞かせてもらおうかな?」 朔也はとりあえず堂本さんのテーブルへついた。 膝二つ分くらい空いている、この距離感が不気味だ。 堂本さんの怒りを押さえつけたような表情は引きつっている。 彼のウイスキーグラスを持つ手も小刻みに震えている。 「あ、あ、の……仕事?です」 「なんの?」 「バニーのアルバイト?とか」 「その言い訳で俺が納得すると思ってるの?このエロ巾着は何だ?」 堂本さんは朔也の布面積のほとんどないマイクロビキニを指差してそう言った。 エロ巾着って…… 「マイクロビキニです。制服なので」 ああ無理だ。ここで堂本さんを納得させることは不可能に近い。だけど警察のお手伝いとか言ったって信じてもらえないだろう。というか言っては駄目だろう。 朔也は次に発する言葉を考えた。 堂本さんの目は相変わらず冷酷で恐ろしい。 「ど、堂本さんだってこんなところに遊びに来てるじゃないですか。人の事は言えないでしょう」 「俺は、仕事だ」 「ぼ、僕だって仕事だ……」 一触即発。このままじゃまたチーフに追い出されかねない。このままではまずい。 朔也は堂本さんの膝の上に座った。両肩に手をかけて唇を耳元に寄せた。 「一緒に住みます。堂本さんのマンションに同居します。今日から。だからその時に詳しい事情は話しますので」 とりあえず、この場を何とか切り抜けなければならないと思い。朔也は堂本さんの一番望んでいるであろうことを提案した。卑怯な手だが、背に腹はかえられない。 堂本さんは朔也の腰に右腕を回して引き寄せた。左手で朔也の首、後頭部を掴むと一気にキスする。 うわぁぁぁぁぁぁぁ! 公然わいせつ。捕まる。 キスが深まる。堂本さんは朔也の唇をこじ開け、舌を中に突き進める。唾液の混ざり合う音がする。 ソファー席では何人かのバニーの子が接客をしているが、客にここまで密着している子はいない。みんなの視線が突き刺さる。やばい。 倉田さんがきっと見ている。彼は警察官、現行犯で逮捕される。 朔也は堂本さんを押しのけてガバっと立ち上がった。 ちょうど朔也の腰の高さに堂本さんの顔がある。 堂本さんの目の前には朔也の下半身、エロ巾着が勃起した状態で差し出されている。 さっきのキスで反応してしまったのだ。 なんて節操のないムスコ……恥ずかしすぎる。 詰んだ……完全にアウトだ。 いくら自分のモノが通常サイズだといっても、さすがにこのエロ巾着からはみ出してしまうだろう。 だが、この巾着、以外に伸縮性に優れている。 どこまでも伸びた。 なんだこの素材は…… 「どうするの?」 堂本さんの声に我に返った。 「え、あ、何が……」 その時、バチンッ!という音と共に、一斉に室内の電気が切れた。 「~ティラリ~ラリラ~ラリラ~ラ~」 パーティー会場に音楽が流れる。 「ただいまから、10分間の暗闇タイムに入ります。窓の外をご覧ください。美しい夜景が光り輝いています」 会場にアナウンスが入った。 テーブルの上にあるランプが、僅かな鈍い光を放っている以外は、室内の明かりが全て消えている。 確かに窓からは大阪の夜景がみえる。 だけど誰も窓へ近づこうとはしない。 なんだ?……何この10分?朔也は辺りを見渡した。勿論暗闇で何も見えない。 何か、やっている。みんな何か、何かやってる? その時。 朔也は後ろ手に腕をグイっと引っ張られた。 よろけて引っ張った相手の胸に倒れ込む。 暗闇の中、ガッシリと朔也を受け止める。相手は誰だか分からない。 「静かに……」 耳元で囁かれた声は倉田さんのものだった。 胸元に抱きかかえられるように、朔也はその場から連れ出された。 会場の入り口で、倉田さんの連れ、体躯のいい大きな男の人が朔也を米俵のように肩に担ぎ上げたかと思うと、走り出した。 暗闇タイムの暗闇で、その時何が起こったのか誰も気がついていなかった。

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