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第36話
喧嘩の仲裁のため、レイ君に彼氏と話をしてくれと言ったら、二つ返事でOKをもらった。
友達の彼氏を紹介してもらえるのが嬉しかったのと、倉田さんが公務員だというと、ちゃんとした職業の真面目な彼氏が自分も欲しい、誰か紹介してもらえるかもという期待から、喜んで承諾してくれたみたいだった。
話の流れで倉田さんの呼び名は「倉っち」府庁舎に勤めている事になった。朔也はラインで状況を説明した。
20分後倉田さんはやってきた。
爽やかな若作りで登場した彼は、なかなかイケメンでモテそうなタイプに見えた。笑顔も忘れずレイ君に挨拶した。
「アッキーの彼氏さんすっごいイケメンだね。羨ましい」
「はは、ありがとう。ちょっと喧嘩しちゃったから。よんでもらえてうれしいよ」
倉田さんはレイ君に、お腹空いてたら何でも注文してと言った。
「年上彼氏なんだね」
「え、そうでも……」
「俺は35だから、一回り以上下だな。でも、アッキーはしっかりしているから、年の差はあまり気にならないよ」
ところどころボロを出しそうになる朔也を倉田さんがフォローする。
「アッキーは昔の彼女に嫉妬していたみたいだけど、彼氏さんバイなんですね。ゲイの子たちは、やっぱりバイの人のことあまり信用していないですよ。だって結局、最後は女の人の所にいっちゃうんだから」
16歳のレイ君は相当恋愛経験を積んでそうだ。
「そうか、そういうもんなんだね。でもアッキーはそこら辺の女の子より夜が凄いから。そう簡単には女の子には気がいかないよ。はは」
「……は?」
「アッキー凄いんだ。エッチだね」
「そうだね、倉っちいつもアンアン言ってるから。よっぽどいいみたい」
朔也は笑顔でレイ君に返した。
「え、彼氏さんがまさかのうけ?だったんですか?すごい……想像できない」
倉田さんの顔が引きつった。
「はは、アッキーのは身体に優しいサイズだから。俺のはデカすぎて入らないんだ」
倉田さんは謎の大きさ比べでマウントを取ろうとしている。
そういう苦労もあるんだと、レイ君は興味深く頷いた。
「この間、アッキーがバニーボーイのアルバイトに行ったって聞いて、びっくりしたんだ。そこで知り合った友達なんだね、レイ君」
「はいそうなんです」
「なんか面白そうなところだし、今度俺も同僚誘っていきたいなと思ってたんだけど、会員制みたいだから難しい。行けないとなると、余計に気になっちゃって、中ではどんなことが行われてるか興味津々なんだよ」
「あ、あまり。外では話しちゃいけない事になってて……」
「レイ君みたいな可愛い男の子が沢山いるんだったら、何をしてくれるかによって、お金持ちのイケメンとか誘って、入会できる|伝《つて》でも探そうかなと思ってさ」
お金持ちのイケメンというワードで、レイ君を落としにかかる倉田さん。けれどけっこう口が堅いかもしれないレイ君。
「暗闇タイムっていうのがあって、触り放題になる10分があるんだよ」
朔也は助け船を出した。
「え、どこまで触れるの?キスはおっけ?口でやってもらったりとかは?手コキはありなの?」
「倉さん。そんなことアッキーに訊いちゃだめだよ。そりゃ、嫉妬したくもなっちゃう」
「ああ、わるいな。ごめんな」
そう言うと、倉田さんは朔也の腰を引き寄せて、朔也の唇にキスをした。
え?何をするんだ……
ここで押しのける訳にもいかず、朔也はされるがままになる。
やっと解放され、ハァハァと肩で息をつき、思いっきり倉田さんを睨んだ。
「こいつ、照れてるな!ははは」
倉田さんは何事もなかったかのように、ドリンクを口に運んだ。
今のキスは必要だったのか?クソっと思いながらも、赤面した顔を隠すようにうつむく朔也だった。
倉田さんはレイ君にパーティーの中で何が行われているか、VIPの個室で本番はあるのか。未成年は何人くらいいるのか。いろんなことを聞き出した。
レイ君のおしゃべりに、へー凄いな!それって楽しいの?それでそれで?など上手に合いの手を入れて、話の先を促した。
それから2時間ほどでたくさんの情報を得ることができた。
カラオケボックスの入り口でレイ君と別れて、朔也は倉田さんと二人になった。
場所を変えるかと言って倉田さんは朔也を連れて個室のある料理屋へ連れて来てくれた。
そろそろ夕方の5時になるところだった。
朔也は堂本さんに食事をして帰るからとラインを入れた。
了解と短い返事が返ってきた。
朔也も子供じゃないんだし、付き合ってなかったときに寝た女の人の事を聞いたくらいでいつまでも拗ねていてはいけないと少し反省している。
子供じみた嫉妬だった。少なくとも自分とまた一緒になってから、彼は他に気を寄せたりはしなかった。まさしく朔也一筋でいつも大事にしてくれていたではないか。裏切られるような事はなかった。
短いラインの返事に、嫉妬して家を出てきてしまった事が悔やまれた。
逆に、付き合っている今、というかさっき倉田さんにキスされたことの方が裏切りではないか。
腹が立ったので隣に座ってビールを飲んでいる倉田さんを睨んだ。
「ん?なに」
「……いえ、なにも」
「おお。ここ奢るから、好きなもん食って。刺身の盛り合わせ頼もうか」
「たまたま関わっちゃったので、あれですけど。レイ君のことは逮捕しないでくださいって思ってます」
「ん、ああ。そうだな……善処しますってことで」
善処しますって言われて、話が通ったことはない。と朔也は思った。
未成年だし警察に捕まっても酷い事にはならないだろうとは思う。
逮捕されず、反省する機会もなく、このまま過ごしてしまうと、彼がこの先もっと危ない事に手を染めてしまうんじゃないかという気もする。
朔也はそんな16歳の危うさをレイ君から感じた。
「誠のとこには、持ちつ持たれつって感じで、一応それなりにお礼は返しているけど、今回、朔也に世話になったお礼がだな……交通違反のもみ消しとか」
「え、できるんですか?」
「無理」
「できないんじゃないですか!意味もなく言わないでください」
「まぁ、今後何かあったら協力する。例えば、変なやつに付きまとわれて困ってるとか?別れたい男を脅してくれだとか、その辺だったらなんとかするぞ」
「なんですかそれ、ご心配なく。今のとこ大丈夫です」
口を尖らせて、朔也は倉田さんに言い返した。
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それからしばらくして、レイ君が大ファンだと言っているアイドルのコンサートチケットが届いた。倉田さんから「お礼に」とプレゼントしてもらった物だった。
日付は来週の土曜日で、ネットでも手に入らないプレミアムチケットだった。
レイ君に行くかと聞くと、その日はアルバイトだけど、休みを取って必ず行くと返事がきた。
かなりレイ君は喜んでいた。確かにチケットの値段をネットで見ると、一日のアルバイト代なんか吹っ飛ぶくらい高額な金額で売られている物だった。
その同じ日の土曜日、ホテルKYリゾートで行われた会員制パーティーが警察により摘発されたことは言うまでもない。
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