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第37話【第五章】
「翔平から聞いたわ」
今日は佐藤弁護士がマンションへ遊びに来る日だった。
「お互い全くそういう感じじゃなかったときの事だし、昔の事だから気にしないでね。今は全くその気はないの」
「ああ。はい大丈夫です」
朔也は自分のいない間にあった男女関係などは、気にしないので大丈夫だと堂本さんに告げた。
それは、自分がこの間、倉田さんとキスした事が後ろめたいからだった。
不可抗力だとはいえ、付き合ってる相手がいるというのに軽率だった。
それを堂本さんには内緒にしている。言わなくていい事だし多分気分を害するだろう。
お互いに恋愛感情なんてなかったし、あの時は恋人同士のふりをしなければならなかったのだから、仕方がないアクシデントだ。
自分の事を棚に上げて、佐藤弁護士との関係にいつまでもこだわっているなんて、僕はそんな子供じみた男ではないのだ。
朔也は二人の同棲をお祝いしたいという佐藤弁護士を、マンションに招き入れた。
堂本さんの同僚であるし、これからも長くお付き合いしていく人である。仲よくしていかなければならない。
まだ帰ってこない堂本さんより前に来て、料理を手伝うと佐藤弁護士が言ってくれたので、朔也はキッチンに二人で並んで、春巻きを作っていた。
佐藤弁護士の得意料理らしく、教えてくれるというので朔也は作り方を覚えていた。
「翔平はこの春巻き好きだったんだよね」
ところどころ気になる発言があるのは無視して、そうなんですね。と相槌を打った。
「付き合っていたことはないのに、手料理を振る舞ったことがあるんだと疑問に思うでしょ?違うのよ。職場のみんなでよくこうやってホームパーティー開いていた時代があったの。昔の話ね」
聞いてもいないのに教えてくれる佐藤弁護士は果たして信用しても良い人なんだろうか。
「そういえば、誠さんがよろしく言ってました。最近は仕事を頼まれてないから、またよろしくって」
なんだかこのまま堂本さんの話をするのに嫌気がさしたので、佐藤さんが紹介してくれた探偵事務所の事に流れを持っていった。
「ああ、そうだった。朔也君に紹介したのよね。あそこ結構危険な調査とかも平気でやってくれるでしょう?助かるよね」
「まぁ、確かにそうですね」
身をもって知る危険な調査を経験した。朔也は苦笑いする。
「倉田さんだっけ?誠さんの幼馴染の。あの人と朔也君が仲いいって聞いたのよ」
「え?」
ふふふと笑って佐藤弁護士はウィンクした。なんだ?どういう意味だろう。
というか、何故誠さんはそんなことを佐藤弁護士に話したんだろう。
後ろめたい気持ちがある朔也は一瞬焦ってしまった。
そうこうしているうちに仕込みも終わって、休憩しようかと二人でお茶を入れた。
「あ、こっちの部屋を朔也君が使ってるんだね。いいよね。部屋が沢山あって、立地も最高だし。さすが翔平だわ、売ったとしても結構高値で売れるんじゃないかな?不動産投資的にもいい物件だよね」
佐藤弁護士は勝手に朔也の部屋を開けた。失礼だと思った。けど、ここへは何度も来たことがあるだろうから、彼女の遠慮のない行動をはいちいち気にしてはいけないのだろうか。
「あ、これは。その……荷物をまだ片付けてなくて」
朔也の部屋の中に置いてあるダンボールの塊を佐藤弁護士が見ていた。
「嘘なにコレ?大人のおもちゃ?うわぁ。私、凄い興味ある。ねぇねぇこれ趣味なの?」
『PROBE』の権田君から送られてきたアダルトグッズがそのままダンボールに入って置いてあった。
しまった。処分しておけばよかった。
「良かったらもらってください。これは友人から送られてきたもので、彼はアダルトグッズの販売しているんです。新作とかいろいろ送ってくれるんですけど、僕は使わないので」
プライベートに踏み込み過ぎじゃないか。朔也は少し腹が立った。
けれどアダルトグッズに興味がわくのはきっとみんな同じだろう。好奇心は抑えられないものだし、何なら全部持って帰ってくれても構わない。
「これって……なんか、見覚えがある」
見覚えって。有名なのかな川端さんの会社。そんなふうに思っていたら、佐藤弁護士が媚薬の袋を取り出した。
「何年か前だったけど、翔平がこのメーカーのこと必死に調べてたの覚えてる。成分分析にも出して、なんかあの時みんなで騒いでた記憶が……」
たしかあの時、堂本さんは媚薬の成分を調べるって言って持って帰った。
体に影響はないか、副作用の有無などを詳しく調べたんだ。
すっかり忘れていたけど、まさかその時に佐藤弁護士にも訊いたのかもしれない。もう何年も前の事なのに、彼女はメーカー名まで覚えているのか?
記憶力には脱帽するけど、勘のいい彼女の事だし何か変なとられ方されたら嫌だな。
ガチャっとドアが開いて、ただいまと玄関から声が聞こえた。
助かった。堂本さんが帰ってきた。もう説明は堂本さんにバトンタッチしよう。
「何二人で騒いでるの?お、志津香いらっしゃい」
「おかえり。お邪魔してます」
佐藤弁護士は堂本さんに何も言わなかった。ただ、なんだか不気味な気がしたので、後で媚薬の袋を見られたことを堂本さんに話しておこうと朔也は思った。
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