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第39話
同棲記念の家パーティーから数日が経っていた。
朔也が探偵事務所へ行くと、そこに佐藤弁護士がいた。
たまたま近くに用があったので立ち寄ったのだという。
朔也は誠さんにアポイントを取っていたので、探偵社に来ることは分っていただろう。
もしかしたら佐藤弁護士は自分に合わせてここへ来たんじゃないかと思った。
「お久しぶりね。先日はたくさんご馳走になって、とても楽しかったわ。ありがとう」
ニコリと笑って朔也に挨拶をする。
「いえ、こちらこそ」
極力言葉少なに挨拶を返す。
「今日は仕事の、調査の報告を聞くためにここへ来ましたので、その……」
「ああ、大丈夫依頼内容は聞かないから。探偵事務所のみんなで飲みに行こうかって話してたから、朔也君も誘おうと思って待ってたの」
待っていたと言われて断ることはできない。朔也は仕事帰りに立ち寄ったから、後は帰るだけだ。これから予定がない限り暇だろうと踏んだんだ。
みんなで行くんだったら自分抜きで、飲みに行ってくれたらいいのに。
何か用事を思いつかなければ。
「翔平、出張でしょ?帰るのは明後日だっけ?朔也君も家事から逃れてたまには遊ばなくちゃね」
ダメ押しだ。
「……じゃぁ、ちょっとだけなら」
朔也は仕方なく付き合うことにした。
探偵事務所の行きつけだという小料理屋に飲みに来た。
メンバーは誠さんと事務の麻衣ちゃん、電子機器担当の多久田君そして朔也と佐藤弁護士。
奥の座敷に案内されて5人でテーブルを囲んだ。
「やっと休みですね~もうなんか何日も休んでない感じで死ぬほど働いた」
事務の麻衣ちゃんが、早速生ビールをぐびぐび飲んだ。お疲れ様と、みんなもビールを飲みだした。
「朔也さん、この間着ていたバニーの衣装どこにやったかしってますか?」
多久田君が訊いてきたので、朔也は焦った。
今、ここに佐藤弁護士がいるのにそれをいうか?
しかもバニーの衣装は何故か堂本さんに気に入られて、いまだに家で着ているなんて言えない。
「帰りに捨てました」
「ああ、そうなんですか。僕あれが気になって、なんか朔也さんが着た感じよかったんで、ちょっとポチろうかと思ってたんです」
意味が分からない。買ってどうするんだ。
「……多久田君が着るの?」
「朔也さん、すごい似合ってたから、あの衣装可愛いなって思ったっす。倉田さんのジャケットを上から着てただけで足丸出しだったし。女の子が男性のシャツだけ着ておはよう!っていうのなんていうか、妄想するじゃないですか。あんな風に見えたんですよ、きゅんです。んで着てみようかと思って」
意味が分からない。僕の生足に『きゅん』?
隣で誠さんがビールを吹き出した。
「マジで勘弁してくれ」
「なになに?」話に入ってきた佐藤弁護士に「仕事の話」といって誠さんは詳しい事は話さなかった。
いろんなケースを扱っている探偵社だけあって、誰にでも簡単に仕事内容は話さないらしい。その辺はしっかり秘密主義なんだと朔也は少し安心した。
「わり、遅くなったな」
座敷に倉田さんが遅れてやってきた。彼も呼ばれていたらしい。
「お疲れ様です」「おつかれっす」「先にやってるよ」
誠さんがそう言うと。おう、と返事をして、朔也の方にも片手をあげた。
「なに、今日は美人さんがいるじゃないか」
佐藤弁護士とは初見らしく、誠さんから話は聞いていますと言って名刺を交換していた。警察関係に知り合いを作っておくと後々何かと助かることがあるらしい。
佐藤弁護士は倉田さんに、丁寧に接していた。
お酒がなくなりそうになるとさっと追加注文をしたり、料理がきたら頼まなくても取り分けたりしている。
立場的には彼女が動く必要はないと思うが、そう思わせないようにスマートに、あくまでもさりげなくやっているようでさすがだなと思った。
男性からするとぐっとくるのかもしれない。
倉田さんがいなければ、そこまで気を配らなかったのかもしれないが、美人の特権というべきか、佐藤弁護士に料理を取り分けてもらうと男性陣は皆嬉しそうに鼻の下を伸ばしていた。
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