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第41話
「分かってると思うけど、朔也君は翔平と別れるべきだと思うの」
「……えっと」
「あなたは、4年前、バーに飲みに来た客の翔平に媚薬を飲ませ、体の不調を訴えた彼を部屋に連れ込んで自分を襲うように仕向けた」
「……」
「あなたの部屋にあった媚薬を見た時、確信した。そもそも、彼はゲイではなかった。恋愛対象もセックスの対象もそれまでは異性だった」
彼女がそう言ってくるだろうとは思っていた。
黙って話を聴く。
「ここからは想像だけど、その後それをネタに、翔平を脅しでもしたのかしら?男同士で身体の関係を持ってしまった事で、自分は被害者だと装ったのかしら?同情心から彼の心を繋ぎとめた?毎週のように東京に通わせて関係を続けるように言ったんじゃない?」
彼女の想像力のたくましさに驚かされた。そういう考えに行き着くんだ。
人というものは自分の都合のいいように解釈してしまうものなのだと改めて実感した。
「あなたが彼を陥おとしいれたのよ」
ひとつずつ正そうか?納得してもらえるだろうか。思い込みが激しい人は人の意見は聞かないものだ。
「……例えば、あなたが言う事が全て真実だったとします。だとしたら、正気に戻す説得をするのは僕にじゃなく堂本さんにですよね。何故、堂本さんに言わないんですか?媚薬のせいで貴方はおかしくなっているだけだと彼に言ってみるべきです」
「そ、それは……彼があなたの言うことだけを信じて、他の人の意見を聞かないから。洗脳されてるのよ。一緒に強制的に暮らしているわけだから、私がどうこう言ったところで、あなたに説得されて終わり」
朔也は首を左右に振った。
洗脳疑惑まできたか。
「堂本さんが僕に洗脳されて、強制的に同居している。そうあなたは決めつけている。でもそれは単にあなたの思い込みだとは思いませんか?男を愛する彼は正当ではない。その考えは同性愛者の人達に対して失礼です。『精神異常者』だと言っているようなものです。そしてそれは差別です」
「ふ、ふざけないで。一般的な話をしているの。誰が見たって、あなたたちの関係はおかしいでしょう?」
「あなたの考えはそうであっても、堂本さんの考えは違うでしょう。僕の考えも違います。もし、自分の考えだけが正しいと思うのならば、それはあなたに問題があると僕は思います」
おかしいといわれればそうなのかも知れない。男同士の恋愛はおかしい。そう思っている人に、そうではないと説得するのは難しい。
理解してはもらえないだろう。
「あなたが素直に身を引けば、彼は全うな人生を歩める。普通の人と同じようにね」
何をもって全うな人生なのだろう。
話し合えば誤解が解けて仲良くなれるというのはただの建て前だ。
彼女とはいくら話し合っても平行線だろう。
彼女自身、自分が堂本さんを好きである、という事を認めていない以上この話に終わりはこない。
彼女のプライドなのか?
自分が彼の事を好きだから『別れてくれ』というのなら、まだ可愛げがあるのに。
「……関係ありますか?あなたに何の関係がありますか?自分の都合がいいですか?僕がいなければ堂本さんの気持ちを自分の方へ向けさせることができると思いますか?」
「わ、私は……彼の友人として、彼を間違った道から引き戻そうと思っているだけ」
「それは、友人がするような事ではない。たんに、貴方が彼のことを友情以上の感情で見ているからとっている行動。僕がいなくなっても彼は貴方のことを好きにならないし、貴方は彼の恋愛対象じゃない。何故なら、もし彼が少しでも貴方に気があるのなら、僕がいなかった3年の間にどうにかなっていたでしょう」
彼女は朔也の問いには答えなかった。
堂本さんも、ただの同僚だと言い切る彼女に対して、直接は何も言えなかったのかもしれない。
好きだと言われていない、告白もされていない状態で相手をふるわけにはいかなかったのだろう。
「あなたが飲ませた媚薬。取り寄せてみたの」
そう言って、鞄の中から川端さんの会社が売っている媚薬を取り出した。
ネットでわざわざ注文したのか?
「あなたが飲んで、性的興奮に陥るか試してみましょうか?」
「え……と。嫌です」
「自分が飲めない物を、彼に飲ませたのよね? それ自体おかしいでしょう。飲んでみなさいよ!ほら」
彼女は瓶のふたを開けて朔也の口の前に持ってきた。
飲んだことはある。だから分かるんだが、気分が悪くなって。性欲を催させる薬。ただの催淫薬だ。
勃起不全治療薬のような物。
けれど、はたしてそうなった自分が堂本さん以外の他の誰かに抱かれたい、抱きたいと思うのか?例えば目の前に女性がいたら、今だったら佐藤弁護士を襲おうと思うのだろうか?それは試してみなくては分からない。
「これを飲んで僕があなたを襲ったらどうしますか?」
「……それこそ、してやったりよ!」
ドタバタガチャン!
大きな音を立てて事務所の扉が勢いよく開いた。
なだれ込むように、誠さん、多久田君、麻衣ちゃんが入ってくる。
「はい!そこまでだぁぁぁぁぁぁ!!」
誠さんが叫んだ。
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