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第42話
「な、なんですか!皆さん勢ぞろいで!何でここにいるんですか!」
朔也は驚いて大声をあげた。
佐藤弁護士は敵意に満ちた顔を誠さんに向けた。
「……邪魔しに来たの?」
彼女は不快さのにじむ声で唸った。
「いやどう考えてもおかしいだろう。佐藤さんさ、朔也君の一挙手一投足を報告しろとか、事務所に来た時には教えろだとか」
「一緒に飲みに行けるようにするだとか、事務所を貸せとか。いやーおかしいです。怪しすぎます」
多久田君が後押しするようにつけ加える。舞ちゃんはうんうんと同意している。
「俺ら探偵よ?」
「その道のプロです!」
「な、何なんですか!ドアの外で皆さん盗み聞きしていたんですか?」
朔也は驚いて皆に尋ねた。
「そんな事するわけ無いですよ朔也さん。室内カメラありますから。ちゃんと録画してますし、俺、隠し撮り、盗聴その専門ですから」
やけに自慢気な多久田君。
今、ここで話していたことが全て盗聴されて録画されていたというのか?朔也はまたも驚かされた。
事務所のメンバーは、以前から佐藤弁護士がやけに朔也に執着していると感じていたらしい。
初めは朔也に気があるのかと思っていたが、朔也には恋人がいるのを知っている。
行動がおかしい佐藤弁護士の魂胆を暴こうと、今日罠を仕掛けた。そう説明された。
それならそうと自分にひとこと言って欲しかった。
「媚薬ってこれスカ?何ですか、これすごいですねエロ漫画じゃないんだし」
多久田君は興味津々で媚薬の瓶を確認している。パソコンを立ち上げ、早速媚薬のことを検索し始めた。
「話を聞いていると、とりあえず朔也君の恋人を取り合ってるって感じでいいのかな?いわゆる三角関係。にしては佐藤さん相手のことを好きだと認めないって感じか」
「私は誰も好きだなんて言ってない。騙されてる彼が朔也君にいいように扱われているのか気の毒だっただけ」
「いわゆるゲイを、真っ当な道に戻そうとしたってことだよね?」
誠さんが佐藤弁護士の方を見る。
「人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえってやつですね」
麻衣ちゃん、死んじまえって、それは言っちゃだめだろう。朔也は焦って麻衣ちゃんを制止する。
「でもだめだよ、無理やり媚薬?精力剤だか知らないけれど、それを飲ませて既成事実を作ろうとするのは。犯罪でしょ、レイプドラックみたいな使い方だからね」
「それは裁判になったとしても男性側が不利。女性は弱い立場なんだから。過去女性側が罪に問われるようなそんな判例はない」
佐藤弁護士が誠さんに鋭い視線を走らせた。
彼女は確信犯だったのだろうか?訴えられても裁判で勝てる確証があるから朔也に媚薬を飲ませて自分を襲わせようとした?
「男女が逆バージョン。犯罪だよ、判例があるかどうかではなく、そういう行動を取ろうとした佐藤弁護士に問題がある。自分でも分かっているよね?いわゆるバイア○ラで無理やり勃起させて、上から跨るみたいな事をしようとしてたんでしょう?」
核心をついた強い言葉に佐藤弁護士が怯む。
「あなた達、何も知らないくせに何を言ってるの?最初に翔平にクスリを盛ったのは朔也君なんだから」
その時。
「誤って薬を飲んだことは間違いではない」
ガチャリとドアを開けて入ってきたのは堂本さんだった。
「けれど志津香、君は勘違いしている。朔也が媚薬をカクテルに入れたことは確かだが、間違えて混入されたもので、お互いその時はゲイではなかった。襲ったのは朔也ではなく俺の方だ。彼は性行為を拒否していた。俺が薬を飲ませた責任を取って体の関係を続けろと朔也を脅迫した」
「そ、それは……」
朔也が言い方を訂正させようと言葉を発しかけたが、堂本さんにちょっと待てと止められた。
「そんなはずないでしょう?あなたは女性しか相手にしなかったじゃない」
「朔也は、そこら辺の女よりよっぽどいいぞ」
朔也は顔に火がつくかと思うくらい赤面した。
「やだー」と恥ずかしそうに麻衣ちゃんが顔を隠す。
「あ、失礼しました。突然すみません。朔也と付き合っている堂本と申します。この度はお騒がせしたようで大変申し訳ありません」
堂本さんは誠さんに頭を下げて名刺を渡した。こんな時に名刺交換か?朔也はあっけにとられた。
「えっとここで話をするのもいかがなものかと思いますので、場所を変えて……」
「いやいや、乗り掛かった舟ですし、別にここで話されても構わないです。それにしても、いや媚薬って一体どういう薬の……ちょっと飲んでみようか」
誠さんは蓋が開いている媚薬を手にすると、瓶を持って一気に飲みほした。
「え!」
「うわぁ!」
「……え、マジすか?誠さんやばくないですか?」
止める間もなくそれは誠さんの喉の奥にごくりと飲み込まれていった。
時が止まったように一瞬、辺りが静まりかえった。
「ひやぁあぁああ!!!」
「いやぁ!」
「ちょっと、誠さん!」
事務所の中は大騒ぎだった。
何してるんですか!と叫ぶ朔也。
吐いて吐いてと背中を叩く麻衣ちゃん。
多久田君は、ネットの使用上の注意を読み上げている。
「これ、口コミヤバくないですか?モノが30センチになるって書いてる。これは記録に残すべきだ!」
「なにそれきもい」
事務所の机の前では、水を飲ませようとする麻衣ちゃん、カメラで撮影しようとズボンを脱がす準備をしている多久田君、なんともないぞと言いながら瓶を見つめる誠さん。
「朔也、もうここから出るぞ」
「え、今?大丈夫でしょうか……」
朔也はおろおろする。
「すみません。また詳しい事は朔也からちゃんと後日報告させますので。また改めて挨拶に伺います」
堂本さんは誠さんにそう告げる。
騒ぎの中、堂本さんが朔也と佐藤弁護士を連れて事務所を後にした。
「片想いは純粋で一途なイメージですが、度を越えれば不幸体質の現れですからね。35超えたら痛いです」
去り際に佐藤弁護士に麻衣ちゃんが冷たい一言を放った。
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