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第45話

『今すぐ朔也が取引している探偵事務所の名前を教えて欲しい』 そう堂本さんから連絡が来た。 何件か取引のある業者がいるが、朔也弁護士が最近やけに頻繁に足を運んでいるのが『まこと探偵事務所』だ。 何かかなり焦っている様子だったので、連絡先と住所を堂本さんにすぐに送った。 朔也弁護士は探偵事務所に用事があると言って、定時に仕事をあがった。 かなり時間を気にしていたので、今日何かあるのかもしれない。 朔也弁護士のお客さんからの急ぎの調査などはなかった。 日頃から調査会社と仲良くしておくのは大事だ。上手なコミュニケーションがとれてこそ互いの信頼関係が生まれるし仕事がスムーズに運ぶことになる。 けれど、朔也弁護士は今日はかなりイラついていたように見えた。仕事中も心ここにあらずな感じだった。何かありそうだ。プライベートな事だろうか? その後、朔也弁護士がゲイパーティーにバニーガールの衣装をきて潜入していたのだと堂本さんから教えてもらった。 まこと探偵事務所の仕事だったらしい。 あの探偵事務所はどうも危険な気がするから、今後あそこへ朔也が行く日は必ず教えて欲しいと言われた。 なぜ私が密偵を続けているのかと言えば、答えは簡単。 彼らをモデルにBL漫画を描いているからだった。彼らがいる限りネタには苦労はしない。 その後堂本さんから、最近朔也に志津香が執拗に絡んでいるようだと報告を受けた。何か気になることがあればすぐに連絡して欲しいと言われた。 佐藤弁護士と朔也弁護士を会わせてしまったのは自分だ。 偶然だとは言え、多少なりとも責任を感じる。 昔、佐藤弁護士、サッチャーはかなり堂本さんにご執心だった。 以前の職場で、彼に近づこうとする女性職員がいると、必ずと言っていいほど邪魔をしていた。 飲み会などの席で、彼に女の子が話しかけようものなら即座に部署移動させられると噂が立つほどだった。 堂本さんを好きなのは誰が見ても明らかだったのに、なぜか告白をしないし自分から行動に出ようとはしなかった。 自らの恋愛には憶病な、蚤の心臓サッチャーと陰で言われるほどだった。 朔也弁護士と堂本さんがラブラブなのはとてもいい事だと思う。けれど時として、強力なライバルの出現はストーリー上不可欠。彼女が何処まで関わってくるか、そこが物語の要になるだろう。 「佐藤弁護士も30代半ばよね……」 スマホをいじりながらひとりで呟いた。 薄幸な女は自分に問題がある事に気がついていない事が多い。あるいは分かっているのに正そうとしないか。 片思いをこじらせて、地雷化している彼女は別の選択肢を選ばなくてはいけないだろう。 『次回まこと探偵事務所に朔也弁護士が行くのはいつ?』 佐藤弁護士に尋ねられたのは先日の事。 食事に誘いたいので暇な日が知りたいのだという。 『本人にお聞きになればよろしいかと思います』 そう返しておいた。 直接朔也弁護士に聞けない理由でもあるのだろうか?密偵である私としてはこれは何かあるなと、新たなプロットのにおいを嗅ぎ取った。 朔也弁護士が『まこと探偵事務所』へ行くことを堂本さんにラインした。明日は祝日で仕事はお休み。 今は出張中だという彼に『旦那が出張している間に浮気するのは女性マンガの鉄板ストーリーです』と返信しておいた。 このタイミングでのアドバイスの出し方には美しささえ感じます。自画自賛。 何があったのか詳しい話は聞いていないが、堂本さんがまこと探偵事務所に乗り込んでいったらしいことはわかっていた。今から向かうと返信があったからだ。 私は良いスパイだと思う。 危険を察知する能力は、ある一定の極みに達している。 ズボラ飯の主婦必見のユーチューブ動画を見て、今日のメニューを考える。 BL漫画において『野菜』も小道具として登場することが稀にある。 まな板の上にナスときゅうり、ゴーヤを並べて想像する。 これは、まさに究極の選択だ。 きゅうりは中折れしたら最悪だろう。ナスはつるつるし過ぎで刺激が足りない。ゴーヤは……これは流石に……手触りを確認する。なかなか良い感触だ。 今日はゴーヤチャンプルにしよう。 酒のあてにはぴったりだ。カロリーも抑えられるな。最近旦那がお腹周りを気にしていたので、ダイエットにも良いメニューだ。 河合さんはまな板の上でゴーヤを縦2つに切り、ワタをスプーンで取り除いた。 ゴーヤチャンプルー☆これと卵だけでできるんだからズボラ主婦には神レシピだ。

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