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3.秘蔵ショット(2)

慌てて金沢の腕を掴んだ颯斗だったが、逆に腕を掴み返され引っぱられてしまった。 「おっ! アノちゃん来たの? やほー」 「今日も元気にストーキングしてた?」 「おつかれ! てか髪色戻しちゃったんだね? 似合ってたのに」  テーブルに近づくと、善のグループの先輩達は、気さくに次々と声をかけてくる。しかし、その中で唯一善だけが少し憂鬱そうにため息をついた。 「あ、はい、あのぅ……髪の毛は、戻しました。ストーカー感消えなかったみたいなんで、俺もこっちのが落ち着くし……」  しどろもどろに答えながら、颯斗は額の汗を手のひらで拭った。 「はい、アノちゃん、ここ座んな!」 「ひゃっ!」  そう言って、金沢に肩を押されて座らされたのは長椅子のベンチの善の隣だ。  他の先輩達は颯斗のスマホを覗き込んで、すげー、綺麗だ、などと盛り上がっていた。  その一方で善は頬杖をついて、片手に持ったコーヒー牛乳のストローを咥えている。体は心なしか後方に引いて颯斗と距離をとりつつも、一応こちらを向いてはくれていた。 「おまえさ」 「は、はいっ! すみませんっ!」 「いや、何したんだよ、何も言ってねえのに謝んなよ」  善は眉を寄せた。  颯斗は盗撮していたことを咎められると思ったのだが、もはやそれについては善は諦めているようだ。 「は、はい、すみまっ、アッ、あのぅ、何でしょう?」  またしどろもどろに答えながら、颯斗は制服のポケットからハンカチを取り出し額を拭った。 「おまえ抑制剤飲んでんのか? なんかいっつも顔色悪いし、汗かくのも自律神経乱れてんじゃねえの?」  善の声音は優しくない。心配して気遣うよりも、体調管理ができないことへの呆れのような感情が感じ取れた。 「あ、はい、あのっ、大丈夫です! 汗かくのは大崎せんぱいと話して緊張しているからでして……顔色悪いのも、えっと、他の理由で」 「他の理由?」 「はっ‼︎ えっと、ゲームやり過ぎて、寝不足で!」  実際、颯斗はきちんとSub用の抑制剤を飲んでいる。顔色が悪いのは病気のせいで常に気分が晴れずに、食欲がなく貧血気味だからだ。 ――カシャッ  不意にシャッター音がなり、颯斗と善は同時に顔を上げた。金沢が颯斗のスマホのカメラをこちらに向けて、二人の写真を撮ったようだ。 「はい、アノちゃん、ツーショ」  ニヤニヤと笑う金沢から手渡されたスマホの画面を覗き込んで、颯斗は目を輝かせた。  そこに写っているのは颯斗自身と善の二人だ。  目の下にクマを作り顔色の悪い颯斗の横に、精悍な顔つきを僅かに歪めた善の横顔が写っている。  それを観た颯斗は、高鳴る胸元を押さえて「グフッ」と気持ちの悪い声を漏らした。 「やめろ、消せって」 「あっ、あぁっ!」  善がするりと颯斗の手からスマホを奪う。  颯斗は咄嗟に手を伸ばすが、肩を入れ込むように背中を向けられ、その向こうで善がデータを消去した。  手元に戻されたスマートフォンからはツーショット写真が消えてしまった。  それを見た颯斗は俯いたまま眉を寄せ、ツンと込み上げたものを、鼻を啜って誤魔化した。しかし、その仕草に周囲は気がついたようだ。 「あー、善がアノちゃん泣かした!」 「写真くらい撮ってやれよ!」 「かわいそー」  やはりどこか面白がるような雰囲気はあるものの、他の先輩たちは颯斗の肩を持つ気のようだ。 「なんだよ、ストーカーとツーショットてバカだろ! かわいそうなのは俺だっつの!」  責め立てられた善は、そこまで言われるとは思っていなかったのか、引くに引けない様子で言葉を返している。 「しょうがない、かわいそうなアノちゃんには俺から善の秘蔵ショットをあげよう」 「えっ、えっ!」  金沢は得意げに手元に持っていた自分のスマホの画面を颯斗に向けてテーブルに置いた。  颯斗は自分のスマホを両手に握りしめたまま、椅子から腰を浮かせてそれを覗き込む。 「どれがいっ? 選んでいいよー!」 「おい、こら、俺の写真だろ!」 「あ、あぁっ! ど、どうしよっ、な、何枚いいですか⁈ 何枚選べます⁈」  そう言いながら、颯斗は震える指先で写真フォルダを送っていく。  どうやら休みの日にみんなでバーベキューに行ったようで、フォルダにはその時のものらしき画像がいくつも保存されていた。 「何枚貰っていいのか」と聞いた颯斗の問いに対して、金沢がその答えを求めるように善に視線を向ける。  それに気がついた善はぐっと鼻筋に皺を寄せ、不機嫌に頬杖をつきながら「一枚だ」と短く答えた。

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