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9.わかったのかよ(2)

 たまにお互いの欲求を解消するために合理的にパートナーになる者もいるが、ただでさえ経験のない高校生の颯斗が自分の身に起こることとしては、想像し難いことだった。 「だよね、あんだけ善のこと追っかけ回してるし」  金沢はそう言って笑った。 「は、はい、ですね、追っかけ回して……ます」  その通りだが、あえて口に出して言われると颯斗は苦笑するほかない。 「アノちゃんがよかったらなんだけど」 「は、はいっ、何でしょう?」 「俺とさ、一回やってみない?」  颯斗は金沢を見上げたまま瞬いた。 「やっ……て?」 「あー! ごめんごめん! ちょっと言い方間違えた!」  金沢は急に声のボリュームを上げ、慌てたように手をヒラヒラと振ってみせた。 「お互いの欲求解消のためにさ、プレイしてみない?ってこと」 「プレイ……」  颯斗は言い慣れないその言葉を、口の中で繰り返した。  意味は知っている。  診断を受けた時に説明されたし、中学の時の特別授業でも詳細に触れていた。  DomとSubが行うプレイは性的な欲求不満の解消を含むこともあるが、それだけではなくお互いの健康維持の目的もある。 「もちろん、エッチなことは無しでさ。ちゃんとセーフワードも決めるし、不安なら保健の先生に立ち会ってもらうってのもあり」 「は、はぁ……」  思いもよらなかった金沢からの提案に、颯斗は戸惑った。 「あ、あの、何で俺なんでしょ?」  心の底から出た質問だ。  善のグループの先輩たちは、学内のヒエラルキーのトップにいるタイプで、いわゆる「一軍男子」だ。  容姿も整い人当たりのいい金沢なら、わざわざ自分を選ばなくても、Subのプレイ相手は他にいくらでも見つかるのではないかと颯斗は思った。 「え? アノちゃんそれ本気で言ってる?」 「え? あ、は、はい」  金沢は驚いたように眉を上げた。  颯斗は首を傾げる。 「ランク調べたことない?」 「ラ、ランク?」  颯斗が聞き返すと、金沢は頷いた。 「ちょっと前に流行ったじゃん、DomSubの特性の強さ調べてランク付けするやつ、知らない?」 「あ、し、知らないです」 「うっそ」  金沢はまた驚いたような表情を見せ、もはや口元に笑いを溢した。 「あ、あの、俺、あんまり友達がいなくて、だから、その、流行りとか疎くて……」 「あ、そーなんだ」 「はい、あ、あの、そのランクが……?」 「うん、たぶんアノちゃんけっこう上なんじゃないかなって」 「上? って、どういう……」 「特性が強いってこと」 「はあ……」 「Subだって教えてないのに知られてること多くなかった?」 「あ! は、はい、そうです! 多いです!」  思い当たる節があり、颯斗は頷いた。特に高校に入ってからだ。  善や金沢にも自分がSubだとあえて打ち明けたことはなかったが、何故か自然と知られていた。 「ランクが上の人とプレイすると、より欲求が解消されやすくなんの」 「あ、な、なるほど」 「うん、だから、アノちゃんにお願いした」 「な、なるほど」 「ダメ?」 「えっ⁈」  顔を覗き込まれ、颯斗は肩を跳ね上げた。 「周りのSubのコみんな彼氏持ちでさ、なかなか頼めなくて。受験勉強にも集中できるように体調管理したいんだよ、お願いできない?」  説明を聞いてもなお躊躇っている颯斗の様子に、押せばいけるとでも思ったのか、金沢は食い下がった。 「あ、は、えっと、あの……」  颯斗は目を泳がせた。  

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