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17.絶対気づいてない(2)

 実は翔太とは大学時代から今でもDomSubのプレイを定期的にしていたりする。でもそれは、お互いの健康維持のためであって、頭を撫でたり軽いコマンドだけだ。翔太に彼女がいる時も、了承をもらって続けていたほど健全なものだった。 「てか、そのせんぱいはゲイなの?」  翔太からの率直な質問に、颯斗はすこし曖昧に頷いた。  Domの中には相手がSubであれば同性との行為に抵抗がないという人は多いが、翔太のようにそうでない人も一定数いるのだ。 「わ、わかんないんだけど……Domなのは確か」 「え、でもDomでもゲイじゃなかったら、ワンナイトでも難易度たかくね?」  その通りだ。  颯斗は頷きつつも、次の言葉を続けた。 「ゲイかどうかはわからないんだけど、そのぉ、きょ、興味はあるんだと思う」 「え? 男とヤルことに?」 「う、うん」 「ん、なんでそんなことわかんの?」 「えっと……そ、それは……」  颯斗は言葉を濁した。 「あ、あの、これ以上は、せんぱいのプライベートなことだから……」  そう答えた颯斗の額を、翔太が人差し指で突っついた。 「ストーカーが何言ってんだ」  その後も翔太は善に関する質問を繰り返したが、颯斗が答えにくそうな素振りを見せた質問に関しては深く追求はしなかった。  しかし、七年もの間拗らせた颯斗の恋バナは酒のつまみにはうってつけのようで、気がつくと翔太は半年に一度ほど見せる泥酔モードになっていた。  店の場所からだと、翔太の自宅よりも颯斗のマンションの方が近い。週末に遅くまで飲んだ時は、その後余力があればどちらかの家で更に飲みながらゲームをするという流れは社会人になってからの定番だ。  足元がおぼつかないと言うのに、まだ飲めると息巻く翔太の肩を支えながら、颯斗は自宅のマンションへ向かった。 「翔太、もうちょいちゃんと歩いて、重い」 「んー、連れないなぁ、颯斗そんなこと言わないで抱っこして」  エレベーターから降りて、廊下を歩く途中で翔太がふざけて颯斗に抱きつく。プレイをする仲なせいか、他の友人と接するよりも翔太との距離感はいつも比較的近い。  颯斗は苦笑しながら「やめて」と翔太の肩を押した。  扉が開いたのはそんな時だ。颯斗の部屋の隣、善の部屋の扉だ。  まさかこんな深夜にタイミングよく善が外出するとは思っていなかった颯斗は、驚きその場に立ち止まった。  出てきたのは善一人だ。  手にスマホだけを持って薄手の上着の下はラフな部屋着だ。コンビニにでも行こうとしていたのかもしれない。  扉を閉めた善はすぐに颯斗たちに気がついたようだ。颯斗は慌てて翔太の肩を強く押して、背中を支えながらなんとか自立させた。 「あ、お、大崎さん、こんばんは」  颯斗はが言うと、善は一瞬翔太に目をやってから、颯斗に視線を戻して声に出さないまま会釈した。 「す、すみません。うるさかったですよね」 「いや、べつに」  善は短く答えると、ドアの鍵を閉めてこちらに歩み寄った。というよりも、颯斗たちのいる位置の後方にエレベーターホールがあるので、そちらに向かっているのだろう。 「あ、お、お出かけですか」 「うん、コンビニ」  そう答えながら、善はつかつかと颯斗たちの脇を通り過ぎていく。 「あ、あのっ、えっと、お気をつけて!」  言葉を探した颯斗が咄嗟に絞り出したその言葉に、善の背中がぴたりと足を止め、一拍置いて振り返った。 「何に?」 「えっ?」 「何に気をつけんの」 「えっと……車、とか?」  そう答えた颯斗を、善がふんと鼻で笑った。 そしてその後は特に何も言わないまま、エレベーターに乗り込んでさっさと行ってしまった。

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