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17.絶対気づいてない(3)

「ねえねえ、さっきのがせんぱい⁈」  部屋に上がり、上着も脱がないままラグの上に座り込んだ翔太が興味本位に声を上げた。 「うん、そう」  颯斗は少々淡白に答えると、翔太の上着の肩口を引っ張りあげる。万歳の姿勢になった翔太の腕から上着を抜くと、ハンガーを通してドアの脇のフックにかけてやった。 「どちゃくそ怖かったわ、めっちゃ睨まれた。うるさかったんかな?」 「えっ?」  翔太の物言いに、颯斗は驚き眉を上げた。  たしかにちょっと連れない応対をされたが、別に睨んではいなかったように思う。 「グレア感じなかった? 俺はちょっと感じたけど」  翔太は渡したペットボトルの蓋をひねりながらそう言った。 「いや、わかんなかった。あんまり目見なかったからかな」 「ぐへっ、颯斗、これ炭酸水じゃん」 「あっ、ごめん、間違えた!」  颯斗は慌てて翔太の手からペットボトルを受け取ると、冷蔵庫から今度こそミネラルウォーターを取り出して渡した。 「もしかしたら、Domの欲求不満解消うまくいってないのかも」  ローテーブルを挟んだ翔太の向かいに腰を下ろして、颯斗はさっき翔太が飲みかけた炭酸水に口をつけながら言った。 「そーなの」  興味があるのかないのか、翔太は目元が空で眠たげだ。 「うん、この前もなんか顔色悪かったし、さっきはびっくりしてよく見れなかったけど……」 「ふーん」  翔太が唸った。その視線は足元に向き、ゆらゆらと船を漕ぎ始めている。  颯斗は苦笑し小さく息を吐くと立ち上がり、クローゼットに押し込んであった毛布を引っ張り出した。  新しく買ったソファは背を倒せばベッドがわりになる。 「颯斗が解消してやればいいじゃん」  毛布を広げていると、不意に背後で翔太が言った。  振り返ると、ゆらりと立ち上がった翔太は、無遠慮に颯斗のベッドの上にどさりと体を横たえた。 「DomSubの欲求不満なんて、失恋直後の女の子並みに口説きやすいだろ」  翔太は目を閉じたままそう言って、器用に足先だけで靴下を脱いでいる。 「そ、そうなの? でも、そんなのってなんか、弱みに漬け込んでるみたいじゃない?」  颯斗が言うと、翔太はふふっと半分眠っているみたいな笑いをこぼした。 「バカ言え、テクニックだろそんなの、常套手段だし、誰でもやってる」  翔太はもそもそと寝返りをうちながら、布団をめくって潜り込んだ。寝るつもりだ。洋服のまま風呂にも入らず無遠慮にベッドに潜り込む翔太を颯斗が咎めたことはない。いつものことだ。 「誰か他の奴に先越される前に、さっさと口説けよ、おやすみー」  ヒラヒラと手を振りながらそう言った五秒後には、翔太の安らかな寝息が聞こえた。

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