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18.せんぱいがでーとかも(2)
善が少し先の路地を曲がり、颯斗は慌てて角からそちらを覗き込んだ。
白壁の低層ビルの前に、白い立て看板が灯っている。善はその店の扉を開けて中に入っていった。
善が扉を閉じたのを確認してから、颯斗は素早く店の前に歩み寄った。
店構えは小洒落たバーのように見える。エイジング加工が施されたような木製の入り口のノブには「OPEN」と書かれたいた看板がぶら下がっていた。
一歩後ろへ下がり、立て看板の方を確認すると、単組なフォントで「LEGALISS」と書かれている。おそらくこの店の名前だろう。
颯斗はスマホで写真を撮ると、なにもコメントをつけないまますぐに翔太に送信した。
『Google先生にきいてみた』
少し時間を空けて翔太からの返信があり、メッセージの後にURLが送信されてきた。
『バー?』
颯斗が送信すると、すぐに翔太からの返信だ。
『口コミみて』
もう一度リンク先を開いて画面をスクロールした。
『Dom Sub男性専用のバーっぽい』
続けざまに送られて来た翔太からの返信を見て、颯斗はごくりと唾を飲んだ。
リンク先のコメントを見る限り、翔太の言う通りのようだ。
『どーすんの?』
『入って……みようかな』
『まじ?w 結構ガチってる店みたいだけど』
ガチってるってなんだろうか……などと思いながら、颯斗は顔をあげた。
ちょうど店のドアが開き、男が二人店の中から出て来た。オロオロと脇に避けた颯斗をチラリとだけ見た二人は、すぐに興味を失ったように寄り添いながら通り過ぎていった。
『翔太、今からこれない?』
僅かな期待を込めてそう送り、返信を待った。
『ごめん正直めんどくさい』
ウサギが鼻をほじっているスタンプが送られて来た。
颯斗は土下座のスタンプを送り返したが、翔太からの返信は『大人しく帰ってエペしようぜー』という内容のものだった。
翔太の召喚は諦めて、颯斗はスマホを胸ポケットに仕舞い込んだ。
多分ここはDomSubのマッチングを目的とした出会いの場なのだ。紹介所のように畏まったものではなくて、それこそ「ワンナイト」のプレイ相手を探すような場所だ。
存在自体は颯斗も知っているが、訪れるのは初めてだった。
少し息を吐いて気持ちを落ち着けてから、颯斗は店の扉を開いた。
こじんまりとした店構えから想像したよりも、店内は奥行きがあって広かった。
週末ということもあってか客が多い。そして見渡す限り全員男性。颯斗が恐る恐る扉の中に入ると、手前の立ち飲み席にいた数名の客が、値踏みするかのような視線を向けて来た。
それに怯んで進めた足を一歩下げた颯斗だったが、すぐに思い直してさらに店内へと入り込む。
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