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19.こう見えて、慣れてるんで(3)

しばらくみんなで当たり障りのない話をしたが、香坂がさりげなく気を利かせ、いつのまにか颯斗と善はカウンターに二人で横並びになって座っていた。  颯斗は相変わらず薄いウーロンハイをちびちび飲んで、善はハイボールを傾けている。  善が隣にいるというだけで鼓動が早まり、颯斗の意識は今にもふわふわと飛んでいってしまいそうだ。多少酔いが回っているのも原因かもしれない。 「こんなとこ来てて、彼氏怒らねぇの?」 「へっ⁈」  唐突に出た彼氏というワードに、颯斗は首を傾げ記憶を辿った。おそらく翔太のことだ。 「あ、いや、そのぉ、か、彼氏じゃないです」 「へぇ、じゃあセフレ?」  語尾で笑いながら、善はハイボールに口をつけた。はなからそんなわけないとでも思っているかのようだ。 「いえ、セフレじゃ、ないです……友達です」  颯斗は首を横に振った。  善は自分から聞いたくせに、「ふうん」と興味があるのかないのかよくわからない相槌を返した。 「こんな店まで来るから、じつは結構遊んでんのかと思った」 「え、こ、こんな店?」 「うん、危ない店じゃないけど、やっぱりそういう目的のやつは多いし」 「そういう……」  颯斗は肩を窄めて俯いた。  それはきっと、性行為を含めたプレイをする相手を探すという目的のことなのだろう。  ここに通っているらしき善の目的もそれなのだろうか。今までも誰かとそういう関係になったのだろうと思うと、仕方ないとは理解しつつも嫉妬心が湧いてしまう。 「そんな不慣れですーって雰囲気丸出しで彷徨いてたら危ねぇから、普通」 「は、はぁ」 「はぁ、じゃなくて。さっきの香坂さん、悪い人じゃないけど、絶対最初プレイ目的で声かけてたからな」 「え、お、俺にですか⁈」  颯斗が驚き肩を上げると、善が呆れたように眉を寄せた。他に誰がいるんだとでも言いたげだ。  普通に話していたはずなのに、なぜかいつの間にか説教されているような雰囲気になっている。 「Subってだけで声かけるやつもいんだよ。こういう場に出てくるやつ少ねぇし」 「な、なるほど……」 「なるほどぉ、じゃねえよ、危機感持て」 「へへっ」 「え、なに、急に笑ってキモ」 「いや、あのっ……なんか懐かしいなって」 「……なにが」 「なんか、昔もこうやって注意してくれた……」  そこまで言いかけて、颯斗は息を飲んで顔をあげた。その動きに驚いたように善は少し身を引いている。 「……人がいたような、いないような……やっぱりいなかったかなぁ……ははっ」  目を泳がせながら、颯斗は握っていたウーロンハイに口をつけて飲み切るまで傾けた。   「あ、あのっ、すみません、ウーロンハイおかわり。こ、濃い目にしてください!」 「え? 濃いめにして大丈夫ですか?」 「は、はいっ、お願いします」  注文を受けた店員は少々躊躇いつつも頷いて、颯斗の前に濃いめのウーロンハイを出した。

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