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20.トイプードル※(1)

善の後を追ったのは衝動的な行為だった。  店に入ったのも、善に誘いをかけたのも、ほとんど勢いみたいなものだ。チャンスの神様には前髪しかないらしい、通り過ぎる前にしっかりと掴まなければ。 「ぅっ……」  善と入ったラブホテルの浴室にしゃがみ込み、颯斗は一人声を抑えて小さく呻いた。  善には先にシャワーを浴びてもらって、その間に必死に男性同士の行為についてスマホで調べたのだ。  善と仲良くなってワンナイトすると息巻いていた颯斗だったが、実は漠然と目標を掲げていただけで、こんなにすぐに具体的な知識が必要になるとは思っていなかった。 「く……るしいかもっ……」  指を二本入れたところで諦めかけた。  同性とも異性とも性行為をしたことのない颯斗は後ろを弄った経験もなく、今はGoogle先生からの知識を頼りに必死に慣らそうとしているところだ。  いきなり挿入は難しいとどのサイトにも書かれている。「ヤリまくりだ」と啖呵を切ってしまった手前、入りませんでしたと言うわけにはいかない。慣れていないとバレれば、呆れられてそこで終わりかもしれないのだ。 「大丈夫?」  バスローブを羽織り、既にぐったりとした様子で浴室から戻った颯斗に善が言った。  ベッドに座りバスローブを羽織った善の胸元に健康的な肌色と綺麗な形の鎖骨が見えて、颯斗はごくりと唾を飲んだ。 「は、はい……ちょっとだけ、酒に酔ったみたいで……で、でも、大丈夫です、問題ありません」  颯斗が答えると、善はいじっていたスマホをベッドサイドに置き、枕によりかけていた背中を起こした。 「Come(来て)」  右手を上向けた人差し指を引き寄せる。その善の仕草とコマンド(言葉)が颯斗の体を動かした。  心地よい、だけどどこか焦燥感を掻き立てられる。従わなければ。従いたい。そんな曖昧な感情に支配されながら、颯斗はゆっくりとベッドの上に膝をつき、善に向かい合った。  善は颯斗のバスローブの胸元をつかみ、足の間に抱えるように引き寄せた。 「決める?」 「へ?」 「セーフワード、決める?」  そう問いながら、善は颯斗の首筋に唇を押し当てた。  緊張で体がこわばり、心臓が今にも口から飛び出して来そうだ。  善の手がバスローブ越しに背中と腰に当てがわれ、颯斗の体を引き寄せている。 「決めなくていい?」 「あ、は、はいっ!」 「ばーか、嘘だよ」 「え、あ、はいっ」  首筋を撫でていた善の唇が滑る。  鎖骨に小さく歯を立てて、湿った舌が皮膚を撫でると、颯斗は思わず「ひっ」と小さく声を上げた。 「色気ねえな」 「あ、す、すいません」 「Strip(脱いで)」  善はそう言って、腰で結んだ颯斗のバスローブの紐を指で弾いた。  颯斗はコクコクと頷きながら手を伸ばす。  颯斗の仕草を邪魔するみたいに、体を抱き寄せた善がまた首筋に唇を這わせている。

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