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22.わきまえてます

目覚めてすぐ、目の前にあるその光景に、颯斗は目を見開き叫び出しそうだった口元を押さえ込んだ。歓喜で鼻息が荒くなる。  目の前に善が眠っているのだ。長いまつ毛が伏せて、穏やかな寝息が聞こえている。こんなに近くで見ていると言うのに、毛穴が一切目視できない。綺麗すぎる。神か。 ――カシャッ  颯斗は腕だけを伸ばし、なんとかベッドサイドにあったスマホを手に取ると、目の前で眠るの善を撮影した。  善はシャッター音で少し眉を寄せたが、どうやらまだ眠っている。  颯斗は善の胸元に収まり、体には抱き抱えるかのように善の腕が乗っている。  事後の意識は曖昧だったが、アフターケアで善が頭を撫でてくれたような記憶がある。どうやらお互いその状態のまま眠っていたようだ。裸のまま布団だけが二人の上に掛かっている。 ――カシャッ  もう一枚撮っても、善は起きなかった。  颯斗は少しだけ考えて、もぞもぞと身じろいだ。  スマホを持った手を伸ばし、インカメラの画角の中に、眠ったままの善のと自分の顔を納めてみる。バレないうちにと素早くシャッターを押した。  寝返りを打ち、善に背を向けながら撮った画像を確認する。盗撮だが、ツーショットを撮ったのは七年ぶりだと、口元がニヤついた。   「ぎゃぁっ!」  唐突に耳を噛まれ、颯斗は驚き声を上げた。  善が起きたようだ。 「何撮ってんだよ」  そう言って背後から体を抱え込まれ、手にしていたスマートフォンを奪われた。 「あっ、ぁぁ……け、消さないでくださいっ!」 「盗撮だろこれ」 「ご、ごめ、ああああ!」  颯斗の叫びは聞き入れられず、善はさっさと写真を消去してしまった。  手元に戻ったスマホを握りしめ、颯斗はシクシクと枕に顔を埋めた。 「こんな明らかに事後みたいな写真嫌だろ?」 「はい、すみません……」  伏せたまま顔を上げない颯斗に善がため息をついた。 「今度、普通の時に撮ってやるから」  その言葉に、颯斗は枕から目元を出して善の顔を見上げた。 「い、いいんですか?」 「ああ、今度な」 「う、うれっ、嬉しいぃぃぃぃ……」  また颯斗は肩を揺らしながら、涙を枕に押し付けた。 「いや、おまえの情緒どうなってんだよ。アフターケア足りてないのか?」  困ったように言いながら、善が颯斗の体を抱き寄せる。シクシク泣いている颯斗の顔を胸元に抱えると、その頭に手を置いた。  善の指先が颯斗の髪を絡めるように撫でている。心地よくて、胸と目の奥がじんわりと温かくなっていった。 「おまえさ、体はもういいの?」 「え? か、体……ですか?」  颯斗は撫でられた心地良さで、虚ろな目つきのまま善の胸元から顔を上げた。 「うん、そう。体調悪いとかないの」 「あ、は、はいっ、正直、尻と腰は死んでますけどそれ以外は」 「ふうん」  善の両手が颯斗の頬を包んだ。まるで医師が診察するかのように、善が颯斗の瞳を覗き込んでいる。 「あ、あのっ……お、大崎……さん?」 「なあ」 「は、はいっ!」 「別に、ワンナイトじゃなくてもいいけど」 「へっ?」 「おまえがいいなら」 「えっと、そ、それって……」 「もっと暴走しちゃうかと思ったけど、案外抑制できたし」 「え?」 「けっこう手加減できたわ」 「あ……あれで?」 「ん?」 「え、い、いやっ、そのぉ、また俺とプレイしてくれるってことですか?」 「うん」  善が頷いたのをみて、颯斗は勢いよく起き上がった。 「そ、それってつまり……!」 「まあ、うん」  善も颯斗と同じように体を起こし、二人はベッドの上に座って向かい合っている。 「あ、あの、つ、つまり……俺……俺たち……」 「ああ、俺たちつきあ」 「セフレになるってことですか⁈」  颯斗は目を見開き、善に向かって身を乗り出した。その瞳は嬉々として光り輝いている。  一度でいい。そのつもりで勇気を振り絞って善を誘った。しかし、あわよくばと思っていたのも事実だ。善の方から言い出してくれたのだから、少なくとも二度目があるのは確約された。そう思って、颯斗は鼻息を荒くした。 「す、すごい……せんぱ、ァッ、大崎さんとセフレになれるなんて……!」 「え、いや、ちょっ」 「あ、安心してください、お、俺慣れてるんで……そう言うの!」 「おまえな」 「俺、頑張るんで、ほんと! う、うわぁ、す、すごいっ……」  颯斗は胸元を抑え、感嘆の息を漏らした。  善はそんな颯斗を見て、深くため息をついている。 「まあ、とりあえずいいやそれで」 「はいっ! あ、ありがとうございます!」 「とりあえずだからな」 「わ、わかってます! わきまえてます! 頑張ります!」  言いながら颯斗は両手の拳を握り締めた。

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