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23.なんか怖いよ(2)
◇
――善くん、なんか怖いよ
昼休み。
初夏の木漏れ日の中、中庭のテーブル席を仲間と囲んでいつものコーヒー牛乳をぼんやりと吸い込んでいたら、数ヶ月前まで交際していた相手に投げかけられた言葉が不意に頭に浮かんだ。
高校二年の後期あたりから、抑制剤が合わなくなって、うまくDom欲がコントロールできなくなった。
彼女は予備校で知り合った近隣の女子校に通うSubで、一年ぐらいは付き合っていた。だけど、このところの善の変化に気がついて、明らかに怯えるようになってしまった。
善も自身も自分をコントロールできないまま、彼女を傷つけてしまうのではないかと怖くなった。
だから三年になる直前の春休みに、受験を理由に別れたのだ。
そこから強い抑制剤に変えたせいで、常に胸元によくわからない感情が燻っている。苛立ちや焦燥感に近いその感情を理解できないまま善はストローを噛んだ。
「善、後ろ見てみろよ」
「ん?」
「まぁた、アノちゃんきてるよ、健気ー」
善は振り返らないまま鼻から息を吐いた。
友人たちがアノちゃんなんてちょっと可愛い呼び方をし始めたその相手は例のストーカーくんだ。
確か二年の芳川颯斗。猫背で髪の毛ももっさりしていて、いつもオドオド自信なさげで、そのくせ突然髪なんか染めて話しかけたりしてきて、よくわからないやつ。よくわからないというのは、なんだか気持ちが悪い。
「ほっとけよ、構うと調子乗るって」
善は言った。
「え、なんでよ。いーじゃん、俺ちょっとからかってくる」
そう言って立ち上がったのは金沢だ。
金沢のダイナミクスもDom性で、学校でつるむ仲間内でDomは善と金沢だけだった。
だから比較的込み入った話をすることも多かったが、善は自分と金沢の根本的な違いをこの頃強く感じている。
同じDomだと言うのに、金沢は庇護欲が強く相手を甘やかしたいタイプ、一方の自分は……
「おっ! アノちゃん来たの? やほー」
「今日も元気にストーキングしてたの?」
「おつかれ! てか髪色戻しちゃったんだね? 似合ってたのに」
いつの間にか金沢が颯斗をこちらに連れてきた。
善はまたため息をつきながらチラリとそちらに目をやると、確かに少し前まで明るく染められていた頭髪はもともとの黒に戻っている。髪が何色だろうと、猫背で陰気な感じは変わらない。また今日も顔色が悪いようだ。
「おまえさ」
「は、はいっ! すみませんっ!」
「いや、何したんだよ、何も言ってねえのに謝んなよ」
金沢に促されて隣に腰を下ろした颯斗に、善はそう言って眉を寄せた。
「は、はい、すみまっ、あ、はい、あのー何でしょう?」
しどろもどろに答えながら、颯斗は制服のポケットからハンカチを取り出し、額を拭った。
「おまえ、抑制剤飲んでんのか? なんかいっつも顔色悪いし、汗かくのも自律神経乱れてんじゃねえの?」
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