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23.なんか怖いよ(3)

 イライラする。  いつも具合が悪そうな颯斗は、たぶんSub欲求をうまくコントロールできていない。そんな状態で近づかないでほしい。  善自身もなかなか合わない抑制剤でなんとか感情に折り合いをつけようと必死な時だった。 「あ、はい、あのー、大丈夫です! 汗かくのは、大崎せんぱいと話してて、緊張しているからでして、顔色悪いのも、えっと、他の理由で」 「他の理由?」 「はっ‼︎ えっと、ゲームやり過ぎて、寝不足で!」 --カシャッ  不意にシャッター音がなり、颯斗と善は同時に顔を上げた。  金沢が颯斗のスマホのカメラをこちらに向けて、二人の写真を撮ったようだ。 「はい、アノちゃん、ツーショ」  ニヤニヤと笑う金沢から手渡されたスマホの画面を覗き込んで、颯斗は嬉しそうに目を輝かせている。  金沢もそれを見て満足げだ。  プレイではないにしろ、相手を喜ばせて甘やかして、金沢は何かの欲求が満たされているだろうか。羨ましいような気がして、またそんなことを考えた自分が嫌で、善は苛立った。   「やめろ、消せって」 「あっ、あぁっ!」  善は颯斗の手からスマホを奪う。  颯斗が取り返そうと手を伸ばすが、背中を向けてそれを阻んだ。  胸元で目を落としたスマホの画面に表示されているのは、やはり善と颯斗のツーショットだ。善はほとんど衝動的にその削除ボタンを押していた。  写真の消えたスマホを颯斗の手元に戻してやった。 「画像を完全に消去しました」その文字に目を落として、颯斗が泣き出しそうな顔で俯いている。  善の胸によくわからない感情が浮かび上がる。自分のことで相手が感情を揺り動かしていることに対する快感と、後悔。  よくわからない、だから気持ち悪い。 「あー、善がアノちゃん泣かした」 「写真くらい撮ってやれよ」 「かわいそー」  やはりどこか面白がるような雰囲気はあるものの、他の友人らは颯斗の肩を持つ気のようだ。 「なんだよ、ストーカーとツーショットてバカだろ! かわいそうなのは俺だっつの!」  責め立てられて善は思わず強い否定を口にした。  直後に抱いたのは快感ではなく後悔だった。単純に嫌な言い方をしてしまったと思ったのだ。 「しょうがない、かわいそうなアノちゃんには俺から善の秘蔵ショットをあげよう」 「えっ、えっ!」  颯斗はスマホを両手に握りしめたまま、椅子から立ち上がった。  金沢は得意げにその手元に持った自分のスマホの画面を颯斗に向けてテーブルに置いた。  また金沢だ。善の言いようを咎めるでもなくさりげない雰囲気で流し、またSubである颯斗を甘やかそうとしている。  善は今胸に沸き起こる苛立ちの理由を理解している。羨ましいのだ、金沢が。 「あ、あぁっ! ど、どうしよっ、な、何枚いいですか⁈ 何枚選べます⁈」  この前みんなでバーベキューをした時の写真だ。それを見ながら、颯斗はやたらと興奮している。  何枚貰っていいのか、と聞いた颯斗の問いに対して、金沢はその答えを求めるようにこちらに視線を向けてきた。  善はぐっと鼻筋に皺を寄せ、頬杖をついた。  羨ましい、自分も甘やかして満たされるような、そんなDomだったら良かったのに。 「一枚だ」  一言だけいうと、花が咲いたかのように颯斗の瞳が見開いた。口元は笑みを浮かべている。  ちょっと気持ち悪いけど、嬉しそうだ。嬉しそうで、何故か善の胸は熱くなった。  少しだけ満たされたのかもしれない。そう思ったら何故か泣きそうになってしまったので、善は誤魔化すみたいに咳をした。

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