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24.近づくな(1)
◇
善は昼休みに、友人たちと体育館でバスケをしていた。このところ勉強ばかりで体が鈍っているからと、よくそうやって体を動かしていたのだ。
だけど突然足元がふらついて、急に息苦しくなった。倒れる前にと大事をとって、保健室で休ませてもらうことにした。
大袈裟だったかとも思ったが、ベッドに横になると思ったよりも具合が悪かったようで、ゆっくりと体がシーツに沈んでいく。
眠りと覚醒の曖昧な意識の中で、善は無意識に颯斗のことを考えていた。多分Domの欲求がそうさせている。
芳川颯斗のSub性はおそらく高ランクだ。
少し前の世間話の合間で、金沢とそんな言葉を交わした。
Dom性だけが強く感じる何かが颯斗にはある。だからやたらと視界に入るのだ。意図しないDom欲を掻き立てられるから、苛立つ。
普通は抑制剤で抑えれば、DomSubの欲求はある程度自分でコントロールできるようになるはずだ。
だけどそれは成人してからの話で、思春期のこの年頃はホルモンが安定せず、体はどんどん変わっていく。
その度に自分の体に合った抑制剤も変わり、なかなか合うものが見つからないと体調を崩す場合もあるのだ。ダイナミクスのランクが高いDomSubほど、その弊害は大きい。
――カシャッ
「んっ……」
聞き覚えのある音で、曖昧なところにあった意識が引き戻されていく。
やっと具合が落ち着いてきたところだから、もう少し眠っていたい。善は眉を寄せ、身じろいだ。
――ポコンッ
また聞き覚えのある音がした。
しかもすぐ近くだ。なんだか荒い鼻息まで聞こえる気がする。
誰だ、いったい。
「うわぁっ⁉︎」
「ひっぇぇぇ‼︎」
善は驚き、跳ねるように体を起こしてベッドの隅にのけぞった。
目の前にスマホを掲げた颯斗の顔があったからだ。
善が驚くと何故か颯斗も驚き声を上げながら肩を揺らした。
「な、なにっ、はっ⁈ 何しようとしてた! ストーカーやろう!」
大きな声を出したのは、荒ぶった自分の鼓動を誤魔化すためだ。
だめだ。今はまずい。そう思って、善はさらに距離を取ろうと体を引いた。
「あっ、いえっ、違っ……すみまっ……」
「ばかっ! こっちくんな! 離れろ!」
「せ、せんぱっ」
『Kneel !』
咄嗟に言ってしまった。
相手の行動を止めるだけのつもりが、ついコマンドを紡いでしまったのは欲望が前に出てしまったからだ。
颯斗はまるで魔法にかかったかのように、ベッドの足元に崩れ落ちていった。
善はその姿を見下ろした。颯斗はペタリと座り込んで床に両手をついている。恍惚とした表情で、善のことを見上げていた。
善は息を飲んだ。耳に届くほどはっきりと自分の心臓が脈打っている。
「せ、せんぱい……も、もっと何か言ってください……」
善は大きく息を吸い込む。
だめだ、それ以上、煽るな。
『Corner 』
「はっ、はいっ!」
ただ黙ってこの場を立ち去ればいいのだ。それなのに、わざわざコマンドを紡いでしまう。
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