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30.七年後つづき(2)
あたふたと見渡して、真っ先に写真を飾っていたコルクボードを裏返した。そして起きた時のままだったベッドの布団を整える。そのうちに善が部屋に入ってきた。
「お邪魔します。間取り全くいっしょなんだなー、あ、でもそっち側に窓があるのか」
「ど、どうぞ! あ、ソファー座ってください」
自分の部屋だと言うのに、所在なさげにうろつきながら、颯斗は善にソファを進めた。
『颯斗ー? どした? 誰か来た?』
繋ぎっぱなしだったスマホから翔太の声がする。
「ご、ごめん、翔太。また連絡する!」
それだけ言うと返事も聞かずに、颯斗は慌てて終話ボタンを押した。
「邪魔した?」
つけっぱなしのゲーム画面と、颯斗のスマホに目をやりながら善が言った。
「い、いえ! ゲームはしょっちゅうやってるんで」
「ふーん」
颯斗のスマホが震え、翔太からのメッセージ通知が滑り込んだ。善の視線がそれを見ている。
「翔太って、この間の?」
「え、あ、は、はいそうです!」
家の前で、善と翔太は一度すれ違っているのだ。
「セフレの人だ?」
「へっ? あ、は、はいっ! そうです!」
颯斗は肩を跳ね上げた。
頭から抜けていたが、そういえば翔太はセフレでヤリまくっているなどと、その場しのぎの嘘をついていたのだ。
「ヤリまくりっていうわりに、毎週会ってるわけじゃねえんだ?」
「はい、あ、あのっ、ほら、セフレなので、お互い都合よく気の向いた時にと言いますか……」
「ふうん」
颯斗は額にジワリと滲んだ汗を手のひらで拭った。
「あ、あのっ、お、お土産ってなんですか⁈」
話を逸らそうと、颯斗は善の手にしていたビニール袋を指差した。
「明太子と、お酒」
「明太子……あ、福岡ですか?」
「そう」
善は頷くと福岡土産と書かれたピンクのビニール袋の中から、ワインボトルと明太子の入っているらしい小箱を取り出しテーブルに置いた。
「あまおうワイン? 苺のワインですか?」
「そ、酒飲めるよな?」
「あ、はいっ、強くないやつなら!」
颯斗が言うと、善はボトルを手にしてラベルを眺めた。
「七パーっておまえ的に強い?」
「な、ななぱー?」
「ビールよりちょっと度数高いくらい」
「あ、は、はいっ、ちょっとずつなら飲めると思います」
「そ、良かった」
善に手渡され、颯斗はボトルを受け取った。ラベルに描かれた苺がなんだか可愛らしい。
「あ、ありがとうございます……嬉しい……です」
なんだか胸がくすぐったい。勝手に口元が笑ってしまう。セフレにもお土産を渡すだなんて知らなかった。ネットにはそこまで書いていなかったから。
颯斗は両手で大事に抱えたボトルをそっとテーブルの上に置いた。
そのまま床に膝をつき、ソファに座った善の前で顔を上げた。
「あの、大崎さん」
「ん?」
「お、お礼を……」
そう言って颯斗は善の足元に擦り寄り、その手を善の衣服に伸ばした。
「は?」
腰回りを掴んだところで慌てた善が颯斗の手を掴んだ。
「え?」
「え? じゃねえよ、何しようとしてんの?」
「あ、あのぅ……お、お礼を……」
「え、まって、お礼でフェラしようとしてる?」
「あ、はいっ! ですです! セフレなので!」
颯斗が頷くと、善が呆れたようにため息をついた。
「あ、あのっ、そんなに上手くできないかもしれないですけど、頑張りますんで……」
「いや、おまえが上手かったらそれはそれでイラつくわ」
善は眉間に皺をよせ、そこを指で押さえながら目を閉じている。
颯斗は不安げに眉を下げた。やり方を間違えたんだろうか。
「あー、ちょっと、一回離れて」
「あ、は、はいっ! すみませんっ勝手に近寄って」
颯斗はそのまま後退り、ソファから少し離れた位置に正座した。
「飯もう食った?」
「あ、いや、昼食べたの遅かったんで、まだです」
「ん、俺も」
「は、はぁ……」
「俺もまだ食ってない」
善の意図がわからず、颯斗は首を傾げた。
「あのぅ、もうご飯食べに帰っちゃいますか?」
「なんでそうなる」
「え?」
善がため息をついた。
「なんか頼むか作るかして食おうぜ、一緒に。そんで、そのワインも一緒に開けんの」
「い、いっしょ、に」
初めて聞く言葉かのように、颯斗は口元で繰り返した。数秒あけて意味を理解すると、息を吸い込み善を見上げた。
「い、いいんですか⁈」
「うん」
颯斗は胸を抑えた。
善と一緒に食事ができる。デリバリーメニューを探すため慌ててスマホを手に取ると、また翔太からのメッセージが滑り込んでくる。
「逆におまえはいいの? この後会うとかだったり?」
善は颯斗のスマホを指差した。翔太のことを言っているようだ。
「いえ、ないです! 会わないです、ほんとに!」
「そう」
「な、何頼みますか? ワイン飲むならピザとかですか⁈」
「なんかパスタとかがいいな」
「あ、そ、そしたら、美味しいパスタソースあるんです! お、俺作りましょうか⁈」
「お、まじ、いいじゃん」
「はい!」
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