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35.普通にバレてるよ【最終話】(1)

                 ◇  冷たいレモンティーをストローで吸い込みながら、颯斗は窓の外に目をやった。  梅雨の晴れ間の土曜日の午後、日差しは先ほど上がった雨に濡れたアスファルトを照らしている。駅前の商業ビルの上階のカフェは混み合っていたが、運良く座れた窓際の席で、今は善と向かい合っている。 「最近ネトフリとかアマプラばっかりだったけど、たまに映画館で観るとやっぱいいなって思うよな」  スマートフォンを触りながら、善が場繋ぎ的に言った。  颯斗は窓の外から視線を戻し「ですね」と口角を上げて頷いた。 「音が違うよな、今日みたいなアクション系は音大事」 「ですね」 「てか、映画俺選んじゃったけど楽しめた?」 「あ、は、はいっ! 楽しかったです! アクション系好きなので!」 「そ、ならよかった」  善はそう言ってコーヒーカップを持ち上げた。  会話がまたそこで止まる。  颯斗は額にじわりと滲んだ汗をハンカチで拭った。熱いわけではない。  善と付き合うようになってからひと月以上経っているが、颯斗は交際する前以上に、善と上手く接することができないでいた。  会話が続かず目を見ることができない。今日だって出張が多くすれ違っていた善と久しぶりに会えたと言うのに、気の利いた話題の一つも振れずにいた。  このままではつまらないと思われてしまうと焦れば焦るほど、声が出なくなってくる。  生まれ変わって垢抜けたはずの永井颯斗ならどうやって話すのか、善が好きになった永井颯斗とはどんな人物像なのかを考えれば考えるほど、わからなくなった。  そこに「善に隠し事をしている」という罪悪感も乗っかるせいで、颯斗は行き詰まり、善と会うたびに疲労感すら感じるようになってしまっていた。 「颯斗?」  不意に名前を呼ばれ、颯斗ははっと顔を上げた。  善と目が合うと、気まずさからまたさりげなく視線をテーブルの上に落としていく。 「おいしくない? あんま食ってねえけど」  善が指差したのは颯斗の前に置かれた皿だ。注文したランチプレートは、二口ほどしか口をつけていないままだった。 「あ、い、いえ、そんなことないです」  颯斗は慌ててフォークを握り直し、切り分けたままだったハンバーグを口に運んだ。

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