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35.普通にバレてるよ【最終話】(2)

 せめて楽しそうにしなければ、せっかく休日を潰してまで遊びに出かけた相手が、終始ぼんやりして食事もまともに食べないのでは、善もつまらないに決まっている。 「一口ちょうだい」 「えっ? あ、は、はいっ! どうぞ!」 「食わせて、あーん」  ふざけた調子で、善は少し体を前に倒して口を開いた。颯斗はその仕草に躊躇い、顔を真っ赤にしながらも、フォークに刺したハンバーグを善の口の中に入れてやる。 「まあ、普通だな」  ハンバーグを飲み込むと、善はそう言って笑った。  これは、気を遣われている。颯斗は「ですね」と笑って返しながらも、善に対して申し訳ない気持ちで表情が引き攣った。  このままではダメだ。何か挽回する余地は無いかと考えたものの何も思い浮かばず、また数分が経った。 「颯斗、体調悪いか?」 「えっ⁈」 「いや、なんかそんな感じだから」 「あ、い、いや、そんなことないです!」 「無理すんなって、今日はそれ食ったら帰ろ」 「ぇっ」  颯斗は息を飲んだ。つまらないと思われたのだ。もしくは終始こんな態度の自分に嫌気がさしたのかもしれない。とにかく挽回しなければと、颯斗は首を横に振った。 「だ、大丈夫です!」 「えっ、でも」  颯斗はテーブルの上に置かれていた善の手を握った。雑然とした店内ではさして目立っていないのは幸いだ。 「ま、まだ、い、一緒にいたいです……」  颯斗が言うと、善は息を漏らすように微かに笑い、颯斗の手を握り返した。 「はいはい、じゃ、とりあえず家に帰ってゲームでもしながらゆっくりしよ」  善の提案に颯斗はほっと胸を撫で下ろし、こくりと頷いた。  善に気を使わせてばかりでは申し訳ない。颯斗はまた必死になって話題を探した。 「そういえばさ、今度花火大会あるよな」  颯斗が話題を探すより先に、善が言った。 「は、な……びたいかい……」  心臓が跳ねた。  まるで呪詛のように颯斗は口の中でその言葉を繰り返す。  七年前に善と颯斗が決別するきっかけになったのは、花火大会の日だ。 「そう、安良川の花火大会」 「は、はい……」 「いかね?」 「えっ⁈」  颯斗は驚き顔を上げた。 「は、花火大会に、ですか?」 「うん」 「な、なんで」 「なんでって」  善が颯斗のおかしな問いを笑った。  その後で少し考え、わざわざ理由を探してくれている様子だ。 「まあ、あれかな、思い出の上塗り」 「上塗り」 「そ、まあ、正直ちょっと苦い思い出じゃん? だから、改めて上塗りしたいっていうか……」  苦い思い出。颯斗の胸に善の言葉が落ちていった。  芳川颯斗との花火大会の日の出来事は、善にとっては上塗りして消したい過去だ。  芳川颯斗は消したい過去。そう明確に頭に浮かべたら、胸の奥がひどく傷んだ。  颯斗は俯きぐっと涙を堪えた。 「あれ? 善?」  突然呼びかけられ、善も颯斗もその人物に顔を向けた。颯斗らと同年代くらいの男性だ。隣には同じく同年代と思われる女性を連れている。黒髪で人好きのしそうな優しげな目鼻立ちのその人物に、颯斗は覚えがあった。 「金沢じゃん」  善の言葉が答え合わせになり、颯斗は慌てて視線を逸らした。

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