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35.普通にバレてるよ【最終話】(3)

 金沢は高校時代の善の同級生で、颯斗にもよく話しかけてくれていた人物だ。 「おお! 久しぶりー! 年末の飲み会以来?」 「そこまで久しぶりでもねえな」  相変わらず仲の良さそうな二人はそう言って笑い合っていた。  その金沢の視線がチラリと颯斗に向いたので、颯斗はいつもと表情を変えるべく視線を逸らしたままぎこちなく口角あげた。 「知り合い?」  金沢にそう聞いたのは隣にいた彼女らしい女性だ。 「うん、高校の同級生」 「じゃあ、私さっきの店もうちょっと見たいから、少し話してけば?」 「え、いいの?」  金沢が善に目配せをすると、善は頷き、颯斗の隣の空いた席を顎で示した。 「じゃあ、ちょっとだけ」  そう言って彼女に手を振ると、金沢は遠慮するそぶりもなく颯斗の隣に腰を下ろした。 「すみません、邪魔しちゃって」  視線を逸らす颯斗の顔を覗き込みながら、金沢が言う。 「い、いえ、そんな、ぜんぜん」  颯斗は殆ど窓の外に向かって顔を背けながら答えた。 「え、善、この人もしかして……?」  金沢が意味深に問うと善は頷いた。 「パートナー、ってか、まあ恋人」  善の口から自分以外の相手に恋人だと紹介され、颯斗はかっと胸を熱くした。  金沢は少し冷やかすような声を上げてから、またこちらを覗き込んでくる。善の恋人に興味津々なのだろう。 「どーも、善の友達の金沢です」  右手を差し出され、颯斗は不自然に俯いたままその手を握り僅かに聞こえるほどの小さな声で「どうも、永井颯斗です」と早口でぼそぼそと名乗る。 「え? なんて言いました? 何さん?」  それは逆効果だったようで、金沢はさらに颯斗の顔を覗き込んだ。 「あれ、ていうか……」  ついつい顔を上げてしまった颯斗の視線が、バチリと金沢の視線と交差した。 「えっ⁈ ええ⁈ アノちゃんじゃんっ!」  終わった。という言葉が颯斗の脳裏に浮かんだ。 「俺、金沢だよ! 覚えてない?」  嬉しそうに笑顔を浮かべ金沢は自らを指差して颯斗の肩を叩いた。  颯斗は笑顔を引き攣らせる。人違いでは?と言えばまだ誤魔化せるだろうか、などと考えつつも喉から言葉が出てこないまま、背中はヒヤリと冷たい汗をかいている。 「てか、善! アノちゃん見つけられたならなんで教えてくれなかったの!」  颯斗は息を飲んだ。  善の顔を見るのが怖い。永井颯斗があの芳川颯斗だったと知って、彼は失望しているだろうか。 「見つけたっつうか、なんか隣に引っ越してきた」 「……え」  平然とした善の口調に颯斗は驚き顔を上げた。  善の表情は特に感情に揺れ動くこともなく、いつもの様子を保っている。 「引っ越してきたって、なにそれヤバくね? 奇跡にもほどがあるだろ」  そう言いながら、金沢がゲラゲラと笑った。 「まさか、善が隣に住んでるってわかってて引っ越してきたとか? なーんてっ」 「ぇっ」 「「……え?」」  颯斗が小さく肩を跳ね上げたのを見て、善と金沢は顔を見合わせた。 「え? そうなの?」  金沢に改めて聞かれ、颯斗は顔を真っ赤にして俯いた。 「うわぁ、なーんだよ、アノちゃんまだ善のストーカーやってたのか!」  また金沢がゲラゲラわらい「なんか変わらなくて安心したわー」などと言っている。

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