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11 約束だぞ
深森から好意を持たれるきっかけが明確だったので、むしろ素直に甘えられる相手になっていた。二人で連れだって歩いている時、深森がいつも卯乃のどこかに触れていた。多少友人としては距離感がバグっている感じはしていたが、深森の傍は居心地がよくて、卯乃はそれには見て見ぬふりをしていた。大事な友達を失いたくなくて、時には友達以上にも思える触れ合いがあったのは否定できないが、今の良い関係性を壊したくなかったのだ。なにより、深森からは何をされても不快ではなかった。
むしろ口下手でシャイな彼が見せる耳としっぽの豊かな感情表現に心がときめいた。それが一番大きな理由かもしれない。
「それよりお前、『一生のお願い』をこんなことに使って良かったのか?」
「え、あっ。……うん」
考え事をしてお得意のぼおっとしていた顔をしていた卯乃に、深森は呆れるでもなく心配そうに身をかがめ、からかうように鼻先を近づけてきた。
よく日に焼けているせいで、彼の野性的な美貌が更に色気を増している。凛々しい顔立ち、きりっとした輪郭。唇もいつになくずっと近くて、暗い玄関先に二人っきり。
女子なら顔を赤らめてうっとりしてしまうかもしれないが、卯乃はあいにく別のことで頭がいっぱいだった。赤くなったり青くなったり謎の反応を見せる卯乃に、深森は攻めあぐねているように眉を顰めると、すっとまた顔を遠ざけた。
「俺にどうしても会いたいとか。……こんなことぐらいでいいなんて卯乃は欲がないな」
(欲ぐらいオレにもあるよ……)
そう言いたかったが、はぐらかして笑う。
「深森もオレに一生のお願いする時は気兼ねなく言ってね。絶対叶えてやるから」
「……そうか絶対か」
「あはは。なんだろ。焼肉食べ放題ぐらいなら何時でも言ってね。シフト増やすから」
「その言葉忘れるなよ。約束だぞ」
我が意を得たようにきらりっと深森が瞳を輝かせたが、卯乃は他に抱えた後ろ暗いことをごまかすように笑うことで精一杯だった。見透かすようにじっと卯乃を見つめてくる深森の視線から逃れるように目を伏せ、卯乃はこそばゆくなった耳の先をぽりぽりと掻く。
(今言える感じじゃないよなあ。どのタイミングで言うか……。深森今日泊まってくから、寝る前に、言う? 言っちゃう? そのタイミングなら気まずくなっても流石に明日の朝に帰るだろ、いやチャリなら直ぐ帰っちゃうかな。それはやだなあ。せめて一晩ぐらい傍にいて欲しい)
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