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12 その二

実は彼にあってから密かに思い続けていた更なる秘めたる『お願い』を叶えるため、深森を自宅に呼び寄せたのだ。散々迷ったせいで、こんな夜更けなら断られるだろうと、ダメもとで電話をしたら、なんと深森はこうして訪ねてきてくれた。しかしもう一つのお願いは流石に電話で気軽になんてとても言えなかったのだ。 (もしも『一生のお願い』にその二があるなんて言ったら……。いくら仲良くしてくれてる深森でもドン引きするかなあ)  恋人でもないのに夜中に呼びつけたのが『一生のお願い』その一だとしたら、その二の方は告げるのにかなり勇気のいるお願いだ。 (番や恋人でもないのに『本性』の姿見せて、なんて……。そんなの友達に願うの、流石にまずい、よなあ) ※※※  この世の獣人はみな、先祖となった動物の姿に自分の意志で変化をすることができるが、それは人型の時の裸を見せるより恥ずかしいとされている。   だから家族や番、恋人などごくごく親しい人の前でしか見せることはない。幼い頃は無意識に動物の姿に変化したりするが、大人になってからはおいそれと他人に見せるのはマナー違反なのだ。  かくいう卯乃も明るいオレンジ色の被毛に覆われた、見るからにふくふくと可愛らしい「ロップイヤーバニー」の姿になることができる。それも子どもの頃以来、一人っきりで部屋でくつろいでいる時ぐらいで、気安く人様に見せたことなどない。 (……こんなお願い。キモがられたら、折角できた大事な友達をなくすぞ、いいのか? 卯乃) 「真っ赤になって、どうかした?」  こういう彼特有のからかい口調も、いたずらっぽい微笑みも、卯乃にしかむけられることはない。  また心臓がトク、トク、トク、と早鐘を打ち始めた。照れて赤くなった頬を手の甲でぎゅっと押して隠そうとしたが、深森の方はいたって普通だ。 (うわ……。家に深森が来てるの、すごく新鮮な感覚。すっごい、嬉しい)  あくまで今夜、深森に会いたかったのは自分の方なのだから、仕方がないが『ただの友達』のくせして舞い上がって、浮足立ったこの気持ちを知られるのが果たしていいことなのか判断がつかない。 「夜でもけっこう暑いな」  深森が熱を帯びた身体を冷まそうとTシャツを捲り上げ、バッキバキに割れた腹筋を見せつけてくる。その男くさい仕草に色気を感じてドキッとしてしまう。

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