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19 底なし
嬉しくなったということは自分もわりと深森を憎からず思っていたのだと、なんだか深く納得してしまったのだ。
「いつから、俺のこと好きだったの?」
「そうだな。殆ど、会ったはじめっからだな。ベンチでへたってた時、俺、お前にかなり酷い態度を取った自覚がある。草食獣人にあんな当たり方して、それでもお前は逃げも怯えもしないで俺のことを気遣って、飲み物持ってきてくれただろ。体調悪いのにそのまま意地はって寮の部屋に帰ろうとする俺を、医務室に引きずって行ってくれた。バイト休んで夜まで付き添ってくれて、コーチとか、チームメイトとか、周りとの間に入って、情けない悶々とした俺の思いを代弁してくれた。どんなお人よしだよって呆れた」
「お人好しで悪かったな」
「いや、感謝してる。俺は環境が変わったくらいで体調崩したことが恥ずかしくて、そういう繊細な奴だって人から思われたくなくて、あの時まで誰にも言えなかったんだ。それで自業自得で潰れかけた俺に、『誰だっていい時もあれば悪い時もあるだろ、深刻に悩むな』って声をかけてくれたよな」
「そうだっけ」
覚えていたけど照れてしらばっくれたら、深森はよりぎゅっと強く卯乃のことを抱きしめてきた。
「ちゃんと自分の現状を伝えて素直に助けを求めること、自分の駄目なところを認めることは勇気がいるけど、すごく大切だってお前から学ばせてもらった。あの時からお前の事、尊敬してるし、大好きなんだ」
(深森……)
卯乃もその言葉を受けて思うところがあり、抱きしめられて顔が見えない今だからこそ、素直に気持ちを伝えてみることにした。
「深森、オレ、そんなにたいそうな奴じゃないよ。お前にはそんな風に言ったけど、あのしつこくしてきた先輩に、もっともっとびしっと言えばよかったし、大学入って、本当はみんなと仲良くしたかったけど、色々誤解されたくないって一線ひいてたし。でも今オレが前みたいに誰とでも明るく喋れて、人目を気にしないで生きてられるのはお前がいてくれるからだよ。本当にありがとう」
「また、そういう殺し文句を……。お前ってさ。可愛さが底なしで困る」
「深森」
唇がまた近づいてきたが、卯乃は避けることなく少しだけ背伸びをした。深森は微笑んで卯乃の額に軽い音を立てて離れていった。
「俺の本性が見たいなら見せてやる。ニャニャモの代わりだっていい。お前の中で俺が大事な存在だって少しでも思ってくれているなら、俺もそこにつけこみたい」
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