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20 ぎしきし階段
つけこむ、なんてズルい言葉を口にするくせに、深森の思いは真っすぐだ。彼が力強く蹴り上げるボールみたいにすとんっと卯乃の胸に飛び込んできた。卯乃は自ら逞しく厚みのある背に手を回して、ぎゅっと抱きしめ返した。
「分かったよ。じゃあ、上の部屋、いこ?」
※※※
かつては祖父たちが住んでいたこの家は、基本的に和室で、部屋は襖で仕切られている。
一番奥の箪笥部屋の隣に、西日が強いごく小さな部屋がある。卯乃が高校生になってからはそこに彼の勉強机とぎちぎちにシングルベッドが置いてある。
今日は二人で眠るには卯乃のベッドは狭いので、転勤前には両親が寝室にしていた二階の和室で寝ることにした。
「階段急だし、家鳴りでぎしぎしいうけどびっくりしないでね。古い家だから」
階段を上がっていった先の部屋はスイッチが壁についているタイプではない。リモコンを枕元に置いてしまっているのを、暗がりの中手探りで拾い上げるのが億劫だった。卯乃は部屋の半ばまで移動をして今どき珍しい電気の傘から釣り下がる紐をかちりと引っ張った。
「レトロだな。旅館に来たみたいだ。落ち着く」
「でしょ?」
深森はそういって目元を緩めたが、白々とした灯りに照らされた卯乃の足元に一組だけ敷かれた布団を見ると興奮からかびくびくっと茶色い尻尾を震わせた。
「ち、違うから。本性の姿だったら、深森縮むから、一つの布団で一緒に眠れるかなって思ったんだよ。ニャニャモともたまに一緒に寝てたから。ほら、早く、見せてよ。本性のお前」
卯乃は深森に駆け寄ると顔を真っ赤にしてぺしっ、ぱしっと硬い腹に軽いパンチをお見舞いしたが、その両手首ごと手をきゅっと逃がさんとばかりに握られる。また心臓がトクンっとなった卯乃に、深森は耳元で含みのある艶やかな声で囁いた。
「色気のない誘い文句だな」
「そんなんじゃないってば」
ぞくぞくっと産毛をが逆立った卯乃は先ほどの口づけの記憶に頬を火照らせる。深森はすっきりと襟足が短くなった夏向けの頭をくしゃくしゃっとかき乱してから、荒々しい仕草でTシャツを頭から脱ぎ捨てた。
「……っ」
鍛え上げられ引き締まった上半身が、あまり明るいとは言えない電気の傘の下に惜しみなく晒される。均整の取れた身体は逞しくも艶美で、男の目から見ても見惚れてしまう。
唇を僅かに開いて、卯乃は湿った眼差しで深森を見上げた。
「お前さあ、たまにするその色っぽい顔、ほんと、なんなの?」
「へっ?」
「はあ、無自覚か……。あのいけ好かない犬獣人だけじゃなくて、お前うちのチームの奴らから狙われてんの、分かってる?」
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