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番外編 内緒のバイトとやきもちと15 side卯乃

 なんだかとても暑くて苦しくて目が覚めたら恋人の腕の中でした。   (腕っていうか、脚っていうか、尻尾っていうか。全身っていうか)  とにかく深森の大きな身体全部で包み込まれて眠っていたようで、卯乃は熱がこもってぽっぽと赤い顔でもぞもぞ動いた。  祖父母の時代からある壁掛け時計の針がこちこちこちと規則正しい音を立てている。カーテンの隙間から覗く外はまだ暗い。 (まだ、夜中かな)  今日はお客様用布団を敷く前にことに及んでしまったから、自室のベッドに二人して寝ている。中学生の頃から使ってるこのベッドは定員一名で、折り重なるように眠らないと落っこちそうになる。とにかく狭いのだ。  浴室で盛大に盛ってしまった後、くったりトロトロの卯乃は狭い湯船で深森に抱きかかえられたまま少しだけ眠ってしまった。寝ている間に湯船の中で全身を洗われて、弱い乳首にぬるぬると触れられたり、首筋を甘噛みされたり、耳を舐められたり。それが気持ちが良くて無意識に自分を慰めようと前に手を伸ばしたら、その手ごと握りこまれてゆるゆると扱かれた。 『そんなにしたら、でちゃうぅ』  またあっけなく達して湯船に沈みそうな身体をまた容赦なく深森に背後から抱えられて立たされ、お湯がほとんど無くなるほどにじゃばじゃば、後ろから貫かれた。逃げる腰を背後から腕を回されてかしめられ、頭を掴まれて唇も奪われる。舌が執拗に口内を荒らしてきて、いやらしくて恥ずかしくて堪らない。家族で入っていたお風呂でこんなことをしてしまってという罪悪感もあってか、それが変なスパイスになっていつも以上に感じてしまった。  自分でもどうしようもないと、冷静になると恥ずかしくて顔がほてってしまう。 『気持ちい、の、つらい、止めてぇ』 『欲しがったの、お前だろ。泣いても満足するまで、離してやんねぇ』 『やあ、許してぇ』 『ダーメ。俺を妬かせたらやばいよって、身体に覚え込ませないと。なあ、無自覚たらしウサちゃん』  独り言の台詞まで怖くて、でも官能に余計に油を注がれる。  風呂場で大反響で喚きながら涙をこぼしたのは覚えているが、『あー、泣き顔、真っ赤っか。すげぇ、やらしぃな』と深森に逆に興奮されてしまった。そのあとは目の前がチカチカして気が遠くなってしまい、気がついたら卯乃のベッドの上で自分が上げる嬌声を聞いて目が覚めた。  ベッドの上で横向きに寝かされたまま、尻には深森のものを深々と加えこまされていた。ぐぐっと薄い腹を上から押されて、中と内とでいいところを突かれて、気が狂いそうに耳までびたびたするほど頭を振った。全くとんでもない目覚めをさせられた。 『あ、ああっ』 『ウサちゃん、起きたか。起きてる方が、締まんのな、お前』  うごめくように腹筋を動かし、ずるずるっとまた引き出してはぐっと押し込むように貫いてくる。涙目で横目に見上げる卯乃を見下ろし、オレンジ色の豆電球に照らされた深森は牙を覗かせ、唇をぺろっと舐めていた。 (怖いけど、綺麗な顔)  そんな深森はちょっと悪そうな男の色気が滴っていて、大好きな瞳のキラメキが凶暴なほどの美を放ってる。またあの『食われる』感覚に本能的に恍惚としてしまった。  そのあと痕が残るかも、と思うほど掴み上げられた足を深森の肩に背負われ、深く激しく突かれては腹筋が痛くなるほど痙攣してイクのを繰り返した。  でろでろのぐちゃぐちゃに汗をかいて、最後は口移しで冷たい水を飲まされた後『まだ、食い足りない、欲しいな』と低く甘えた声で呟かれた時には『もう無理』と降参せざるを得なかった。    そして何時間か気を失うように眠っていたらしい。身体はべたべたしていないが、何となく湿気や匂いで官能の痕の余韻が部屋中に満ちている。  シトラス系のルームフレグランスと混じる、恋人の腕の中の落ち着く香りは格別に心地よく感じた。  だが抱きぐるみよろしくホールドされて、腕の中から這い出すことができない。今は亡き愛猫ニャニャモが子猫の頃、お気に入りの兎のぬいぐるみにじゃれたり抱き着いたしていた様を思い出して卯乃はうふふっと微笑みを浮かべた。 「みもりぃ、暑いよお、起きて」  やっと腕の拘束が緩んだので裸のままの卯乃は頭の上にガーランドのように連なって吊るしてある、丸い和紙の球のヘッドライトを付けた。    薄ぼんやりした灯りの中、深森が満たされたような顔で眠っているのが見えた。艶々とした肌、逞しい骨格に胸筋の線が綺麗な身体をしている。大きな身体で片足を曲げて窮屈そうにしているのがなんだか可哀そうで可愛い。 (こんなに格好いいやつが、あんな風に嫉妬するなんて……)  なんだか胸が切なくきゅんとしてしまって、卯乃は眠れるお姫様に口づけるように深森のふっくら厚みのある唇にキスをした。 「深森、起きないね。良く寝てるね。可愛いぞ」  深森が眠っていることをいいことに大胆になった卯乃は高い位置にある腰に跨って深森の顔の両側に手をついて見下ろす。 「ねぇ。嫉妬深い子猫ちゃん。オレの事、そんなに好き?」  深森よりは高いが艶のある声で囁いてから、誘惑するようにペロッと唇を舐める。 「深森はオレの宝物だよ。機嫌直してくれた?」  今は宝石を隠している瞼の上に両方とも口づけた。深森の唇は見た目以上に柔いからキスだけでもすごく気持ちよくなってしまって、飽きずに何度も何度もちゅ、ちゅっとバードキスを繰り返す。 「……あ、勃っちゃうかも」  こんな時、自分が曲がりなりにもセックスマシーンの異名をとる種族であることを実感する。兆してきた卯乃自身を硬い深森の腹にすりすり充てて、まだまだキスを繰り返す。 「キス、気持ちいい。みもり、大好き」 「……こんなん、俺も勃つわ」 「わわ、深森?」  すると恋人がその美しい双眸を見開いて、卯乃の肩を掴むと、腹筋を使ってがばっと起き上がってきた。      

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