51 / 92

番外編 内緒のバイトとやきもちと16 side卯乃

卯乃は起き上がった深森の腹に乗っかったまま、伸ばしてしてきた長い腕で耳ごと頭を撫ぜられた。 「熱烈な起こし方だな」 「あはは。おはよ」    ちょっぴり恥ずかしくなって、頬を撫ぜる大きな掌に顔を擦り付けると、深森がもう片方の腕で卯乃は背中を引き寄せられた。  さっきは暑がって腕の中から逃げ出したくせに、と自分でも思うが、すっぽりと卯乃が治まる深森の腕の中はこの世で一番落ち着く場所なのだから仕方がない。暫しもたれかかって目を閉じた。 「外、まだ暗いな」 「……また寝る?」 「……」  そういったものの、このまま眠るのはなんだか勿体ない気がしてきた。 (折角今日は深森も朝練ないしゆっくりできるんだもんな)  初めての晩から何度か深森が泊まりに来たが、朝方練習のために帰っていくのをそのたび見送っていた。 (あれはあれでエモいけど、やっぱ寂しいし)  卯乃は甘えるように深森にすり寄った。深森はスウェットの下だけ穿いたラフな格好をしているから、胸を合わせ素肌が触れ合うとさらりと暖かく気持ちがいい。 「朝の事気にしないで一緒に居られて、嬉しいな」    深森もそれには無言で頷いてくる。どちらともなく唇を寄せキスをする。なんの技巧もない、くっつけるだけのキス。それだけでも多幸感が押し寄せてきて卯乃の身体に余計に火が灯る。  ぎゅうっと愛しい人を抱きしめつつ、背中を宥めるように撫ぜる。寝起きでまだ気だるいのに、好きな人に触れた身体はまたしっかり反応してきた。  きっとまだ執拗に愛された記憶が色濃く残っているからだろう。乳首も芯を持ち、深森の胸に擦り寄せるとヒリヒリするのにそれが逆に刺激となって身体が震えるほど心地よい。  甘い吐息を漏らしたら、尻の辺りに寝起きでもすでに元気な深森の欲望が触れる。   「深森、まだ眠たい?」 「……ん。卯乃いい匂い」  どちらとも付かぬ返事をして、深森はぐりぐりと甘えるように額を肩に押し付けてくる。 「おんなじ石鹸の匂いだよ。ミルクのやつ」 「いや。卯乃の匂いは特別。特別いい匂い」  そう云い張る同い年の恋人の仕草が可愛くて、卯乃は頭を撫ぜてからかった。 「ふふっ。深森、当たってるよ」  ふわふわの耳元に吐息を吹き込んでお尻をモゾモゾ動かして誘惑したら、深森は両手を卯乃の腰まで下ろして、尻たぶを包み込んだ。  そのままやり返すようにふわふわの尻を揉みこんでくる。そのうち長い指先が秘所にそっと触れてくる。 「あんっあぁっ……」  自分でも甘ったるいと思う声をあがる。深森が中を長い指が探り始めたから、もう嬌声を止められなかった。 「やらけーまんま。即、入りそう、どうする?」 「どうするって……」  寝起きで普段より一段と低い声で囁かれ耳を先に犯される。 (深森のこういうやらしー声、めちゃくちゃ腰にクル)  くいっと腰を動かされ、焦らすように尻に長大なものを擦り付けてきた。そのくせ、指先で両方の乳首の先をつねったりこねたりうずかせてくる。 「それ、やあ」  繰り返される胸への刺激を逃れようと、無意識に腰がへこへこと動いてしまって恥ずかしい。一気に貫いて欲しいのに、いつもみたいに深森の方から来てはくれないようだ。 「意地悪っ」 「俺のこと襲ってきたの、そっちじゃん。欲しかったら自分で入れろよ」  少しずつ空が白んできた。夏の朝は早い。寝起きと思えぬ精悍な表情の深森に、涙目の卯乃は肩を押し、卯乃は両膝で立って彼を見下ろした。 (まだちょっと、ツンツンモード?)    今まで自分から深森を導いて、中に入れたことは無い。卯乃の大きな瞳の端から、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。 「欲しいけど、怖いよお、深森がして」  既に臨戦態勢に入った深森がたまらないな、という表情で眉を下げた直後、一瞬にして卯乃は天井を見上げていた。  深森が起き上がって、シーソーのように自分が下に来たのだとわかった時には腹の中にみちみちと深森のそれに貫かれていた。身体の使い方を熟知した男の早業に、卯乃はすかさず「ひゃあっ」と悲鳴をあげながら前を極めてしまった。目の前がチカチカとして腹がびくびくと波打つ。放ったものが自分の腹の上に生暖かく滴ってきた。感覚が鋭敏になりすぎて腹におさまったものを救急締め付けるたびに感じてしまって辛いのだ。このまま動かれたらたまらない。  卯乃は思わずずり上がって楔から逃れようとしたが、逆に深森が両手の指を絡めて上から万歳するようにベッドの上に押さえつけられた。 「トコロテン、気持ちよかった?」  試合後よりも涼しい顔をした深森が唇の端から舌を覗かせにやりと笑う。卯乃は文句の一つを行ってやろうと唇を震わせたが、噛みつくようにキスをされ恋人を窘める余裕など、すぐになくなってしまった。 「あ、あっ、むりむり、動いちゃいや」  「無理、止まんねぇ」  達したばかりなのにお腹の中のいい所を狙うように当ててくる。刻むピッチも早いし、長く持つ。  こういう時、アスリートの勘さが遺憾無く発揮されると思う。  普段は焦らして自分から入れて深森を翻弄してみたい、とか思ってもいるのだ。だけどいざ勝負となると負けてしまう。完敗だ。 「みもり、それ、ヤバい、きもちぃ。だいすきぃ」  真っ赤な顔で感極まった声を上げながら涙を零したら、綺麗な太い眉を苦しげに歪ませ深森はうめいた。 「やべ、可愛すぎて、イキそうになった」 「ああっ……、んっ……、みもりはぁ、オレっすき?」  遮光カーテンを開けっぱなしだったから、白いレースのそれ越しに光が淡くさしてきた。動きを止めたままぎゅうっと手を握り合って、べしょべしょと涙が落っこちて少しだけ深森の表情が見えるようになった。  深森は蕩けるような表情で卯乃を見下ろしてくる。ああ、愛されているなあと目を見たらわかる。目を閉じたら、唇に柔らかなものが当たって、それからぴらりとめくれた耳の先っちょにもキスされた。 「好きに決まってるだろ。俺のウサちゃん。俺のが絶対、沢山いっぱいお前のこと愛してる」 「そんなことないもん。絶対オレの方が深森のこと、好きだと思う!」  ここは断固として譲れない卯乃だったけど、勝負の世界に生きてるアスリートの深森はそう云い張って譲らない。 「いや、俺のが、絶対好き。俺にだけ隙見せて、俺にだけ甘えてくれよ」 「深森もお、オレだけ、見てて!」  それからまた日が昇るまで、二人して幾度も愛を確かめ合った。トロトロに力が抜けた身体で揺さぶられながら、これはオレが降参しないと絶対終わらないと卯乃は悟ったのだった。  

ともだちにシェアしよう!