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番外編 未明の深森 昼下がりの卯乃 13

 力が入らない身体に鞭をうって何とか片足を開くと腕を伸ばして恋人の首に腕をかける。一瞬だけ腹筋に力を入れて起き上がり、掠めるような口づけしたが、気怠くて力が出ない卯乃は唇を舐めながら瞳を閉じた。  深森は一瞬苦し気に眉を顰めて、これ以上卯乃に煽られないようにとなんとか興奮を抑え込もうとしている。  昨日もたまにこういう苦しげな顔をしていた。今朝一瞬だけ、夢かと思ったけどあれもきっと現実だ。 「へへっ。もっとキスしたいのに……、力抜けちゃう。深森のキス、気持ちよくて大好きなのに」  「お前なっ」  泣き声みたいな声だと思った。 「俺をどうしたいわけ?」 「オレに夢中にさせたい。深森にオレなしじゃいられなくなって欲しい」 「……そんなん、もう手遅れだ」  吐き捨てた言葉とは裏腹に、やっぱり口づけは甘く優しくて、卯乃が震えてよがる歯の裏や上口蓋を舐めながら、胸を宥める様に、だが快感を呼び起こすようにまさぐってくる。  もう片方の足も開いて、向かい入れる意志をみせたら、やや蕩け始めた蜜壺に締め付けられながら、深森が再び奥に入ってくる。  ちょうど雷鳴が鳴り響き、口づけを受けたまま驚いた卯乃が声を上げかけ身体をずり上げかけた瞬間、深森は本能的に卯乃の腰をもって自らのように乱暴に引き寄せてさらに放埓な動きで卯乃を翻弄してきた。 「深いぃ」 「好きだろ、この辺」    冷静な雰囲気を出そうとしているが、先ほどまで卯乃の身体を慮っていたとは思えない勢いで腰を動かしてくる。そんな恋人の姿に、卯乃は蕩け切った顔で甘えるような嬌声を上げた。 「そこ、好き、もっと、もっとして」  さらに身体の中で質量を増す恋人が愛おしくて、惜しみなく痴態をさらけ出してしまう。 (ああ、余裕ない深森、恋人って感じがする)  性悪なことを考えている自分にも驚いたが、これが好きな人をもつということかと卯乃は思った。優しく慈しみ合うだけの友情とは違う。お互いのいやなところすれすれのエゴまで見せつけ合って求めあう。 (こういうの、ちょっと痺れる)  今まで男から言い寄られても気持ちが悪いだけだったし、追いかけられたら逃げたくなるだけで捕まりに行こうなんて天と地がひっくり返っても絶対にしなかったはずだ。  だが深森には何をされても許してしまいそうだ。 (食べたいって言われたらいつでも食べさせてあげたい。深森がいつでもオレでお腹いっぱいだったらいいのに。そしたらオレの事しか考えないで済むだろ? だってオレ、深森のこと……) 「大好き」 「ああ、俺も」  畳に染みができるほどの汗を滴らせ、互いに求め合って互いに名前を呼び合ってはててから、なんとか湯船に重なるようにして座り込んだ。  お湯を張っている間、互いに無言で、卯乃は逞しい腕に背後から抱かれたままうつらうつらする。浴室の窓から光が差してきた。下のほうだけ少し空く形なので斜めに仰ぎ見たら雨は上がって目を刺すほどの光が差していた。   「今日はもうずっと一緒なんて嬉しいな」  幸せすぎて思わずそう呟いたのに、なんだか泣けてきた。  休みが終わったらまたいつもぐらいしか会えなくなる。恋人になる前はどんな風に一人きりの夜を過ごせていたんだろう。それすら思い出せない程に、深森の事が好きで好きで堪らない。ひと時も離れたくない。 (誰かを大好きだって思う気持ちって、嬉しいのになんでこんなに寂しくもなるんだろう)  ぽろぽろっと湯船に雫が落ちていった。 「卯乃?」  鋭い恋人は卯乃の変化に敏感に察知して、頭のてっぺんに口づけてきた。                                       

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