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「よーみなと!今日はちゃんときてたんだなー」
三限の授業が終わり、四限も教室が同じため指定席まで移動して寝ていると、わしゃわしゃと髪を大きな手で掻き混ぜられた。聞き慣れたが直接聞くのは久しぶりな樹の声に、枕にした腕から顔を樹のいる右に向けて視線だけそちらによこす。伸びた前髪が顔にかかって視界の樹の姿が二つに割れる。
「うーん、もー出席やばいから」
「げっ、ひと月まるまる休むからだろー。もうリーチじゃん…て、ピアスまた増えてるし」
樹の視線が鼻に集中して、くるくると忙しなく変化していた表情が呆れた顔でとまった。
「右の鼻ちょっと赤くなってるぞ」
「あ、さっき開けたから…」
「さっきー?…また立香ちゃんたちに会ったん」
「んー、まあ、うん」
「あのひとらに会うたびピアス開けないと気が済まなくなんの、悪化してるじゃん。もーそろそろけじめつけろよ」
「んー、わかってるんだけどさー…」
腐れ縁の幼馴染の言葉がささる。ずっと近くにいたから、何年も手放せない想いと代償を知っているから心配してくれているとわかっていてもなお消せないこの気持ちと申し訳なさの罪悪感に挟まれて苦しい。
少しの沈黙がありタイミング良く樹は友人に呼ばれたようで、また家行くわ、と言い残して友人と次の教室へ足早に向かっていった。
樹と違って湊には友達がいないため、樹がいなくなれば睡眠補給を再開するのみである。無理に心をこじ開けられたような少しの痛みには気づかないふりをしてもう一度腕枕に顔を沈めた時、あっ、とすぐとなりで声がした。
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