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「となり、やっと会えた」
声のする方へ顔を向けると、この世のものとは思えないほど全てのパーツが寸分の狂いなく黄金比に収まったような綺麗な顔がこちらに向かって笑顔を浮かべながら頬杖をついていて、思わず驚いて飛び起きる。
「この授業ペアワーク始まったのに隣いないから、毎回俺一人で資料集めて課題提出してたんだよ」
「す、すみません…」
怖い…。笑顔だが棘が数本尖ったような言葉を聞いて、思わずリュックを抱きしめて頭を下げる。
「いいよ。それで、名前は?」
「え?」
「名前」
「う、うえはらです」
「下」
「みなと、です…」
「へー、みなとちゃん。可愛い名前だね」
「ありがとうございます…?」
「可愛いみなとちゃん。ピアス、似合わないね」
先ほどと変わらない笑顔のまま、この人が放ったその言葉に心臓がドクンと嫌な音をたてた。
「え」
「これも…これも。似合ってないよ」
伸ばされた指が唇に触れる。正しくはリップピアスに。
「もう顔にあけないでね」
伸ばされた手が引かれ、同時に金縛りに合っていたように動かなかった体に意思が戻る。
う、とかあ、とか声が漏れるけど、どれも形を成さなくて、わけのわからない恐怖心で体が逃げたいと叫んでいた。まだこちらを見つめて笑みを浮かべた目の前の男が理解できなくて席を立つ。
ガタンと大きな音を立てたせいで授業開始直前の少し静かになった教室中の視線が集まる。目立つのも注目されるのも好きじゃないし怖い。リュックを胸に抱いたまま早足で教室をでた。
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