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「ああ、最悪…」
土曜日、昼頃まで寝ていて鳥の巣になった頭のまま鏡の前で項垂れる。昨日寝る前にリップピアスを付け替えたが、ろくに消毒もせず無理にねじ込んだため少し腫れていた。湊の体はピアスの数に似合わず金属アレルギーがあるのに加えて敏感で、衛生面で手を抜くとすぐに反応してしまう。
歯磨きをしながらコップ一杯の水をレンジで温め、規定量の海塩を混ぜる。歯磨きを終えてちょうど適温になったホットソークでうがいをする。
「塩辛っ」
濃い味が苦手なだけに思わず顔を顰めるが仕方がない。すぐに引いてくれよ、と願いながら洗面所を出る。
時計を見るともう二時を過ぎていて、まとめて回そうと思っていた洗濯物は明日の自分に託すことにした。
遅めのお昼ご飯でも食べようかと思ったが、ホットソークのせいで食欲も湧かず、惰性にテレビをつけてベッドに寝転び直した。チャンネルを回すも特に気になる番組もなく、適当なバラエティ番組にしてスマホを開くとちょうど立香からLINEがきていた。
ごめん、スーパー行ってる竜司くんのとこに傘持ってってほしい、と涙を流した顔文字のついたメッセージを見て、がばっと勢いよくベッドから飛び起きる。電気をつけていなかった部屋はたしかにいつもより薄暗く、窓に寄りカーテンを開けると水を含んだスポンジのように重そうな灰色の雲から絞られたように雨が降っていた。
立香に了解スタンプを送って、服を着替える。この雨だと一瞬でびしょ濡れになるだろう。早く早く、と急ぐ心になんとか追いついた身体が、玄関の傘立てから二本傘を取り出しかけて一本戻し、逡巡の末やっぱり二本取り出してドアから飛び出した。
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