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「湊、ごめんね!ほんとにありがとう…お料理してて手離せなくて」
パタパタとスリッパを鳴らしながら玄関に駆けてきた姉である立香は、そう言いながら湊にタオルを被せて頭をわしゃわしゃと拭く。
「立香さーん、オレも拭いてくださーい」
「自分でやってくださーい」
竜司の言葉に立香は笑みを含めながら返す。当然湊は自分で髪を拭くことなど造作もないが、立香の中ではいつまで経っても小さくて可愛い弟らしく子供扱いされる。立香に髪を拭かれながら、二人の仲睦まじい会話を聞いて無意識に臍のピアスを軽く引っ張る。痛みで意識がそちらへ向かう。
「湊、ちょっと濡れちゃったしこっちでお風呂入ってく?」
「そうだ、湊の好きそうなチーズケーキもさっき買ったんだ」
「うーん…課題もあるし、自分のとこ帰るよ」
湊は二人の言葉に甘えることなく、部屋に戻ることにした。二人の家を出る間際、竜司がスーパーの袋からチーズケーキのタルトを丸々一つ取り出し、渡してきた。コレ食って頑張れ!と鼓舞してくれたのでそれに礼を言ってエレベーターに乗る。三階上がって自分の部屋に入ると、今度は自分が彼らの家に傘を忘れたことに気付いて自嘲する。
「竜司さん、レアは立香が好きなだけで、俺は食べれないんだよ…」
竜司に持たされた、一人で食べるには大きいレアチーズケーキのタルトを見ながら呟く。姉もそこまでは知らないであろうそんなこと、竜司はもっと知るはずない。自分のことを考えて、こうやって好きなものを買ってきてくれる嬉しさで胸はいっぱいなのに、無性に苦しくなって、玄関にうずくまった。
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